だから、あなたをここで殺します

火侍

プロローグ

 ――――驚く程に静かだった。

 

 あれほど騒がしかった人々はもういない。明るく蒸気に満ちていた街はもう存在しない。――――大切な人も、どこにもいない。


「…………」


 少女はただ、その光景をゆっくりと眺めていた。

 曇った空色の瞳に荒廃した世界が映る。

 綺麗だった長い白髪にはべっとりと血がこびり付き、衣服や体の隅々にまで付着している。

 これほどの惨状に至ってもなお、彼女の表情は変わることなくまるで機械のようにじっと目の前の光景を見つめていた。


「やあ、セラ。ひどい有様だねえ」


 不意に背後から少女の声がする。

 その声にセラと呼ばれた少女はきゅう、と瞳孔を細め振り返る。


「…………」


「もう言葉すら忘れてしまったのね。さながら、今の君は殺戮マシーンといったところかな?」


「…………」


 少女の言葉には応じず、セラは返り血で錆び付いていた刀を鞘から抜く。

 その顔に感情を一切持つことはなく、しかし目に明確な殺意を宿して。

 この人は、わたしと同じ。だから敵。だから、ここで――――。


「だから、あなたをここで殺します」


「何だ、喋れるじゃん」


 セラの呟きに少女は感心したような声を上げる。

 直後。


 激突が、始まった。


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