第一章30 『子どもと依頼と○○と』
「ガイさんちょっといいですか?」
早朝、コンコンと部屋の扉をノックしながら声を掛ける。後ろにはライとエン君もいる。
少し遅れて扉が開き、赤いツンツン頭が顔を出す。
「……何だ?」
「昨日の私たちはどうするかについて、結論が出たので話に来ました」
昨日の夜――エン君は私の手を取ってくれた。三人の意見が一致した以上答えは一つだ。
「出来れば、フェイちゃんにも聞いて欲しいんですが」
「あぁー、それならまだ隣で寝てると思うから起こしてきてくれ……」
「隣…………? ガイさんのベットの中で隣に寝てる? やっぱりお前ーーー!」
ロリコンを否定したガイさんから、驚き発言が出た為に思わず掴みかかる。
「何でそうなるんだよ!
「本当ですね? 信じていいんですね?」
「当たり前だろ! 大体ベットで隣に寝てるなら自分で起こすわ!」
「やっぱりその気があるんじゃないですか!」
「だから、何でそうなるの!? 例えだよ、例え!」
「ガイ、朝から煩くてごめんにゃ」
「本当にすみません!」
「何で二人が謝ってるの!? 私、何かした?」
何故か深々とガイさんに頭を下げているライとエン君を見て、自分が何かした気分になるが、気のせいという事にしておこう。
「じゃあ、フェイちゃんを起こしにいきましょうか」
隣の部屋まで移動し、コンコンと扉をノックして声を掛ける。
「はぁ……はぁ……はぁ……! フェイちゃん……ちょっといい? グヘヘ……」
「不審者過ぎる!? ガイに切れてた奴の台詞と思えないにゃ!」
「本当です! ガイさんに怒ってたの何だったんですか!」
「どう見ても今のドロシーの方が、ロリコンクソ野郎にゃ!」
「ロリコンクソ野郎!? 私はただの子ども好きよ!」
私はロリコンでも、クソでも、野郎でもないのに酷い!
「子ども好きが、そんな不審者みたいになりませんよ」
「ぐっ……! エン君もそこまで言うなんて、ただ緊張しただけよ」
「ただ緊張してる奴がグヘヘ……なんて言わないにゃ! 子どもに何かしようとする変態の台詞にゃ!」
「チッ!」
「舌打ち!? 態度悪すぎにゃ」
別に私はフェイちゃんの寝顔をじっくり見ようとか、起こす振りをして一緒のベットに入ってそのまま二度寝してやろうとか、起きてたとしても抱き締めてやろうとかは考えていない。決して!
「まぁ、とりあえずその話は置いといて」
「その話の原因がする発言じゃないにゃ……」
「フェイちゃーん! ドロシーお姉ちゃんだよー?」
もう一度扉をノックする。
「………………」
「フェイちゃん?」
「…………留守です」
「居留守使われた!?」
そこから、扉を開けて貰うようになるまで十分掛かった……
「で、お前らはどうするって?」
ガイさんの部屋にフェイちゃんも来てもらい、話を進める。
「私たちは皆ここに残ります!」
「そうか」
この町で起きている事件……それら全てが解決するまでは、ここを離れるつもりはない。
「なら、俺から頼み事がある」
「頼み事……ですか?」
「この町で起きている事件が解決するまで、お前たちの力を貸してくれ!」
ライとエン君の目を確認すると、二人とも無言で頷いてくれた。
「勿論です!」
皆の気持ちを踏まえた上で答える。まぁ、例え断られたとしても最初からそのつもりだった。
今の私たちの気持ちは一つだ。
話が終わった後、ガイさんとフェイちゃんは違うルートで調べるとの事で、別行動を取ることになった。
ガイさんには調査をするならと、魔物避けの小型の街灯を勧められたが、他にも困っている人がいるだろうから放ってはおけないと断った。
調査ついでに依頼を達成出来れば、助かる人も多いだろう。今日得た情報は、夜に宿屋で共有する事になっている。
「私たちはどうするにゃ?」
「とりあえず、西側の調査も兼ねて出来そうな依頼がないか調べるしかないわね」
ギルドの扉を開けながら、ライ達と相談する。
「何かいいのは……うん?」
入り口から直ぐの所に、小さな子どもがいた。ギルドの中は閑散としているが、ちらほらいる大人に混じって一人だけが子どもという変わった状況だ。
「行かないと!」
「嫌な予感にゃ……」
「はぁ……はぁ……はぁ! 君こんな所でどうしたの?」
「一回捕まればいいにゃ!」
「僕もそう思います」
「エン君まで!?」
私が声を掛けたの小さな女の子だった。見た感じ、多分フェイちゃんよりも下の年齢だ。
「ギルドに依頼しにきたの」
「依頼……」
カウンターの奥を確認してみる。相変わらず忙しそうにお姉さん達が動き回っているのを見るに、新しく依頼を受ける余裕があるか怪しそうだ。
「どんな依頼をしたいのかな?」
「これが欲しいの」
自分で描いた絵を見せてくれる。
「これは……」
「見たことあるにゃ」
「あっ、そうですね!」
これなら何処にあるか分かる。
「どうしてこれが欲しいのかな?」
「あのね……最近お父さんが元気ないから、お母さんが好きだったこれを見せて元気付けたいの」
こんな小さな子が、大人が沢山いるギルドに一人でいたのはそれが理由か――なら、やる事は一つだ!
「二人ともいい?」
「嫌って言ってもどうせやるつもりにゃ?」
「僕も構いませんよ」
「二人ともありがとう」
女の子に向き直り質問する。
「私はドロシー、よろしくね! あなたの名前教えてくれる?」
「リン」
「リンちゃん……可愛い名前ね」
「ドロシーが言うと不純な意味に聞こえるにゃ」
「誰が不純よ! リンちゃん、これ私たちが採ってくるから少し待ってて?」
「うん!」
満面の笑顔で返事をするリンちゃん。あー、可愛い! 出来ればこの笑顔を小一時間目の前で見てたい。
「何か良からぬ事を考えてる顔にゃ」
「か、考えてないわよ!」
「目が泳いでるにゃ」
「煩いわね! とりあえずエン君はリンちゃんと一緒に居てくれる?」
「はい! 任せて下さい」
西側の調査もある。魔物を倒しにいく訳でもないから、さっさと行って、直ぐに帰ってこよう。
「行くよ、ライ!」
「本当にお人好しにゃ」
「ライもでしょ?」
私たちは目的の泉まで走り出した。
「あれ?」
目的の物も難無く手に入れ、フォレスト西側の入り口まで戻ってきた所で違和感を覚える。何度かここを通ったが、何かが違う。
(うーん……)
入り口辺りをもう一度よく見てみるが、他と変わらず、木で作られた柵と、魔物避けの街灯があるだけで――――街灯?
今度は街灯を中心に見てみる。何だか前に見た時より数が
「ドロシーどうしたにゃ?」
「あっ、ごめんライ」
まぁ、何度かここを通ったと言っても数える程だ。きっと、私の記憶違いだろう。
そのまま直ぐにリンちゃん達が待つギルドまで戻った。
「はい! リンちゃんこれどうぞ!」
「これが欲しかったの」
私たちがフォレスト西の泉から採ってきた
リンちゃんの絵は六芒星の形の白い花が描かれていた。花に詳しくはないが、ジードさんの調査依頼で採った、変わった形の花だったのでハッキリと覚えていたのだ。
「あのお代は……」
肩にかけた小さな鞄から何かを取り出そうとするリンちゃんを止めて話を続ける。
「そんなに手間も掛かってないし、お代はいらないよ!」
こんな小さな子からお代を貰う訳にはいかない。
「でも……」
「いいの! これでお父さん元気になるね」
「うん! ありがとうドロシーお姉ちゃん」
そう言って私に抱きつくリンちゃん……何これ? ここは天国?
「………………」
「ドロシーお姉ちゃん?」
「………………」
「ドロシーさん?」
「………………」
「ドロシー? なっ!? 立ったまま昇天してるにゃ……」
「何がどうなったらそうなるんですか!」
「………………はっ!? 私今どうなってた?」
余りの幸せに意識が飛んでたらしい。
「ドロシーお姉ちゃんも病気なの?」
「ある意味病気にゃ…………頭の」
「誰が頭の病気よ!」
「僕もそう思います」
「エン君まで!? 何か二人仲良くなってない?」
「まぁ、仕方ないにゃ……」
「そうですよね……」
二人揃って何故だか遠い目をしている。こっちを見てよ!
「ねぇ、リンちゃん?」
「なに?」
さっきの会話で気になった事を聞いてみる。
「リンちゃんは何処か悪いの?」
先程、
「うん。たまにね、咳が止まらなくなるの……それもあるからね……」
だから、余計にお父さんを元気付けたかったのか! リンちゃんの頭を撫でる。
「リンちゃんはいい子だね」
「ドロシーお姉ちゃん……」
「でも、このお花変わった形だね」
「うん。このお花は…………」
それから、リンちゃんから私が採ってきた花の話を聞いた後、お父さんの所に行くからとリンちゃんとは別れた。驚いたのは……
「リンちゃん送ろうか?」
「一人で行けるから大丈夫だよ。皆、ありがとう」
「じゃあね!」
「あっ、そうだ! お父さんがお店をやってるから良かったら来て」
「お店?」
「うん! 市場にあるの。ドンって怖い顔の人がお父さん!」
「分かった! 絶対行くね!」
「ばいばい」
「バイバーイ!」
町の南に向かって歩いていく、リンちゃんを見送り一息付く。
「……うん? ドン? 怖い顔?」
「何か覚えがあるにゃ……あっ!」
「「ドンさん!」」
ドンさんを知らないエン君はきょとんとしていたが、私たちは二人揃って驚いていた。まさか、あのドンさんの娘がリンちゃんだったとは……
店に顔を出す理由がまた一つ出来た!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます