子ども好きな魔王と少年と○○と~○○はあなたが決める物語~

要 九十九

第一章 魔王と出会いと○○と

プロローグ  『冒険と第一歩と○○と』

 


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 これは本当に不味い! 想像以上に息が上がっている。額からは汗が落ち、油断すれば疲れで倒れてしまいそうだが、それが理由で呼吸が荒い訳ではない。

 目の前には夜の暗闇で一層不気味に見える森があるが、一点だけただの森では見る事のない景色が広がっていた。

 緑一色の中に一際映える赤、それは自然物などではなく、人間なら誰もが目にしたことのあるだ。

 その炎が、ただの一般的な森の一言では片付けられない状況を生み出していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 燃え盛る赤は、私たちをここから逃がさない為に森をぐるりと囲んでいた。

 その内側には、大柄の人間が四足歩行になったと見間違えるような体躯の狼が、何頭も群れをなしてこちらの様子を窺っている。

 まるで、自分達の背後には炎なんてないかのようにじわじわと距離を詰めて来ているが、それも荒い呼吸とは関係ない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 自分の身なりを確認する。金色の長い髪も、それを頭の後ろで留めてポニーテイルにしている大事な蝶の髪飾りも、今は土で汚れてしまっている。

 服だってそうだ。全身を包む白いローブも裂けたり、ほつれたり、汚れ以外も目立ってきている。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 また息が上がってくる。何度見てもそう思う。今はそんな状況じゃないのも分かっている。

 でも、あぁ、やっぱり……


「やっぱりエン君にフェイちゃん凄く可愛いよぉぉ!」


「それで、はぁはぁしてたにゃ!? どう見ても今はそんな状況じゃないにゃ!」


 目の前にいる子ども達二人の感想を漏らすと、横にいたライが、猫の耳をピクピク動かしながら突っ込みをいれて来た。

 ライの綺麗な桃色の長髪も、獣人特有の引き締まった体にも、所々に戦いの汚れがついており、嫌でもそういう状況じゃないと思い知らされる。

 だけど、そんなのは関係ない!


「だって、可愛いものは可愛いんだもん! はぁ……はぁ……」


「ドロシーはとりあえず、そのはぁはぁするのを止めるにゃ!」


「じゃあ、ひぃひぃ?」


「言葉の問題じゃないにゃ! 子どもを凝視しながらはぁはぁするのを止めるにゃ!」


「えぇー!」


「今はそんな状況じゃないと僕も思います」


「なっ!? エン君まで?」


 私が凝視していたエン君が、落ち着いた声音でそう言った。

 エン君の黒髪も、その左目辺りの前髪に混じった赤い髪の束にも、少し土がついている。

 今、エン君が着ているフード付きの黒いローブも、私のローブと同じくボロボロだ。


「……わたしも……そう思う……」


「フェイちゃんまで!? おねーさん泣くよ?」


「泣くといいにゃ」


 私が見ていた内のもう一人であるフェイちゃんがたどたどしく同意する。

 栗色の髪を短めのツインテールにしているフェイちゃんは、フリルのついた服も含め、そんなに汚れてはいない。

 むしろ両手に抱えた、大きなクマのぬいぐるみであるテディの方が汚れが酷いだろう。

 フェイちゃんの可愛いつぶらな瞳を、許される物ならずっと見ていたい。


「あぁー! 可愛いなぁ」


「……近い」


「ただの変態にゃ!? フェイからさっさと離れるにゃ!」


「えぇー! ちょっと息のかかりそうな距離で見つめてただけじゃない」


「それがヤバイにゃ! その距離はただの不審者か変態にゃ!」


「そこまで言うなんて、ライ酷い!」


「酷くないにゃ! 酷いのはドロシーの性癖にゃ!」


 私を責めるような目で見てくるライ。


「ぐっ! だから性癖じゃないって言ってるでしょ! ただ私は子どもが好きなだけ!」


「そんなギラついた目で子どもを見るのがただの子ども好きな訳ないにゃ! ただの犯罪者予備軍にゃ!」


「誰が犯罪者予備軍よっ! 私はただの!」


?」


「子ども好きよ! あんたどんな悪意ある聞き間違いしてるのよ!」


 何をどう間違ったら、好きが食いに変わるのか……


「まぁ、どっちでもいいにゃ……」


「良くないわよ! 何勝手に話終わらせてんのよ!」


「ドロシーなりに場を和ませようとしたにゃ?」


「なっ!?」


 思わぬ指摘に、つい声が出てしまう。

 正直、今の状況はいいとは言えない。諦めてしまってもおかしくない状況だからこそ、前を見るしかないのだ……


「この話は終わり! とっとと、この場を乗り切るわよ!」


「恥ずかしがってるにゃ?」


「うるさい!」


 私には、これからやらなくちゃいけないことがある!


 目の前は炎に囲まれた森。段々と距離を詰めてくる戦狼キラーウルフたち。

 この光景を見た人は誰もが思うだろう。逃げ場もない絶対絶命の状況だと……


 だけど、私たちは臆する事なくそれらに向かい合う。




 これは、子ども好きな魔王と少年と○○な物語の始まり……

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