File.32 セントラルのいちばん長い日②

 隠していた旧式の警備用ドローン2機を無事回収してから30分後。テレサとサクラは現在、巨大な金属製の扉の前に立っています。

 

 今しがた二人が進んできた通路には、おびただしい数の防衛用ドローンが残骸となって散らばっていました。どうやら全てがサクラの推測通りのようです……。


 そうしてサクラが近くにあったコンソールを操作すると、扉はゆっくりと開き始めます。


「さぁ~て、鬼が出るか蛇が出るか……。テレサ、ここからが正念場だよ」


「わ、分かってますよ! 大丈夫です! テレサはやればできる子ですから!」


 扉へ視線を向けつつ難しげな表情を浮かべるサクラと、緊張からか言葉とは裏腹に顔を強張らせるテレサ。

 

 二人はそれぞれに思いを抱きながら、開いた扉の奥へ歩を進めます。

 心配しなくても大丈夫ですよ、テレサ……。貴女はHAL-A113ソフィアがなにがあっても守ります。


 §§


 扉の先へ進むと、姿を現したのは円柱状の巨大な機械。

 

 姿を形作るのは無機、有機を問わず幾層にも積み重ねられた数多のパーツ群。

 それらを駆動させ、あるいは脈動させ、ときに精緻に絡み合わせ、まるで一つの大きな生き物のように稼動する灰色の巨塔。

 現人類を守護するセントラル。そのシステムの根幹。


「ははっ……。私も実物は初めて見たが、まさかこんな代物だったとはねぇ……」


「うぅっ……なんだか不気味で気持ち悪いです……」


 乾いた笑みを浮かべ唖然とするサクラと顔を青くし機械から目を背けるテレサ。


 セントラルを支えるシステムの本体、その異形の姿。

 多くの機械と生体部品からなるそれに、二人はただ呆然とします。

 

 ここがすでに敵地の中心だということも忘れて……。


 次の瞬間、轟音とともに吹き飛ぶ警備用ドローン。

 壁にぶつかる衝突音、続けて響く破砕音、粉々に散らばる構成部品。


 突然のことに言葉を失うテレサとサクラ。

 その視線の先には上半身が人、下半身が蜘蛛を模した純白の戦闘機械。軍用ドローンT09A3 R-3001。


 身動きできないテレサたちに対し、駆動音を響かせ近づくT09A3 R-3001。

 これはいけません。初手から絶体絶命のピンチです! なんとか二人が逃げ出す隙を作らなくては……。


 当初のシミュレーションが全て無駄になった状況に混乱しつつ、少しでも時間を稼ぐため無事な警備用ドローンを操作しようとした瞬間、ふらりと現れる人影。


「おやおやぁ~? 騒がしいと思って様子を見に来たら、お二人さん……こんなところでなにをしてるっすかぁ~?」


 T09A3 R-3001の背後から現れたその姿に、テレサは愕然とした様子で目を見開き、サクラは小さく舌打ちします。


 そこにいたのはアイラ・クラリス。テレサの親友であり、頼れる同僚……この場に最もいて欲しくはない人物の一人でした。


 §§


「いやぁ~。誰かが来るとは思ってたっすけど、まさかテレサっちたちとは……。ハーフにはちゃんと頼んだじゃないっすかぁ~、テレサっちを変なことに巻き込むなって~。まったく、忠告のしがいがないっすねぇ~」


 動きを止めたT09A3 R-3001の足下で、こちらを小馬鹿にした様子で笑いつつ、やれやれと肩を竦めるアイラ。確かに見た目や言動は本人そのものですが……。


 照合:デバイスのデータから人物同定を実行…………結果、対象がアイラ・クラリスである可能性は93.76%です。

 

『テレサ、骨格や言葉遣い、声紋などから可能な限りの分析をおこないましたが、彼女がアイラであることを否定できる材料はほぼでありませんでした……。残念ですが、目の前の人物は紛れもなく、アイラ・クラリス本人です』


 結果を報告しますが、未だに現実が受け入れられないのか、呆然としたまま微動だにしないテレサ。

 しかし、サクラは違いました。険しさの増した表情で、訝しげにアイラへ問いかけます。


「それで、小娘? いや、アイラ・クラリス……ここ最近、セントラルで起こった事件。ブラックラットパークの問題もひっくるめて全部、アンタが首謀者って理解でいいのかねぇ?」


「あはっ、ようやくアタシの名前を呼んだっすねぇ、サクラ・アトワール。そうっすよ? パークの件も今セントラル中で起こっている問題もぜーんぶアタシがやったっす。どうっすかぁ? 悔しいっすかぁ? アタシはすっごく楽しいっすけどね!」


 こちらを嘲笑うかのようなアイラの言動。

 苦虫を噛み潰したように顔を歪ませるサクラ。


「でも、どうして……どうしてですか、アイラ!」


 二人が睨み合う中、テレサが今にも泣きそうな表情で問い質すと、アイラは優しげな微笑みを浮かべ語り出します。


「そんな顔をしないでほしいっすよぉ、テレサっち。最初はね、お金だったんすよぉ~。ブラックラットパークにちょーっと細工をするだけで莫大な報酬が手に入るとか、流石に心が揺らぐっすよねぇ~。ほら、旧時代でもよくあったらしいじゃないっすか、システム内の個人情報を売り捌いてお金を稼ぐとかって……」


 悪びれもせず紡がれる動機に、唖然とした様子で目を見開くテレサ。


「でも、そんなのあんまりです! あの事件で沢山の人がAIを、大切な家族を失ったんですよ!? 自殺者も沢山でてるって教えてくれたのはアイラじゃないですか! それなのに……」


 半ば叫ぶように言い放たれる言葉。

 すると先ほどまで飄々としていたアイラが視線を鋭くします。


「いやいや、だからっすよ。テレサっち。莫大な報酬と標的が育児系AIだったからこそ、アタシはパークの件に手を貸したんっすよ?」


 元から育児用及び育児体験用AIのデリートが目的だった……それは奇しくもこちらが以前推測した動機そのもの。


「う、ウソです! アイラがそんなこと……。アイラがそんな簡単にAIをデリートできるはずがありません!」


 目に薄らと涙を浮かべ、哀願するように叫ぶテレサ。

 確かにアイラほどAIに好意的な人物が、莫大な報酬と引き換えとはいえ、そう簡単にAIの完全デリートに手を貸すとは思えません……。

 しかし、アイラはそんなテレサの言葉を冷ややかに笑います。


「ははっ。テレサっちがアタシのなにを知ってるんすか? まぁ、確かにAIは好きっすよ? でも、それと同じぐらい育児系のAIが大嫌いなんっすよ……」

 

 そのあまりにもアイラらしからぬ冷淡な態度に、愕然とするテレサ。


「理由は言葉で説明するより、実際に見たほうが早いっすよねぇ、きっと」


 言いながらおもむろに自身の目へ手を当てるアイラ。

 次の瞬間、なにかが目からこぼれ落ち、床の上で小さく跳ねます。紅い円形のそれを無造作に踏みつけるアイラ。微かに響く粉砕音。


「あぁ~、うん。やっぱりこのほうがよく見えるっすねぇ」


 淡々と呟き、こちらへ視線を向けるアイラに、テレサとサクラは信じられないと様子で息を飲みます。

 なぜなら、向けられたその瞳の色は、紅ではなく空のように透き通った蒼。純粋なアーティフィシャルではあり得るはずのない虹彩色。


「なるほどね……。アイラ・クラリス……アンタも私と同じハーフだったわけだ。まったく、上手く化けたもんだ……」


 正体を見抜けず悔しさを滲ませながら紡がれる言葉に、アイラは面白くなさそうに肩を竦めます。


「同じって言うと微妙に嫌な感じっすけどねぇ~。でも、だからこそ、サクラ・アトワール? アンタならアタシの動機が理解できるんじゃないっすか? 生みの親に必要とされず、邪魔者扱いされてきたアタシの気持ちが……」


「…………」


「アイツはアタシのことは認めないくせに、カウンセリングとか言って育児体験用AIとザナドゥ内で暮らしてたんっすよ? 現実の……コフィンの横にはドローンに世話をされる小さな実の子どもがいるのに……」


「…………」


「この世界は間違ってるんっすよ、サクラ・アトワール。こんな得体の知れない巨大な機械に管理されている世界は! どんな理由があるにせよ実の子どもを放り出して、仮想空間に逃げてしまうような世界は!」


 まるで宣誓でもするかのように声を上げるアイラ。

 それにサクラは小さく頷くと深いため息をつき、まるで憐れむような視線を向けます。


「あぁ、よく分かった。アイラ・クラリス。私とアンタは同じハーフだが根本的に違うらしい。どうすりゃそこまで狂えるんだか……。アンタのそれは、小さな子どもが駄々をこねるのと同じさ。子どもの癇癪に世界を巻き込んでんじゃないよ!」


 サクラの言葉にスッと顔から感情を消すアイラ。


「セントラルとスラムを知っていて、システムの本体を見てなおそう言えるんすね、サクラ・アトワール。狂ってるのはどっちやら……。まぁ、いいっす。最初から理解されるとは思ってなかったっすし? あと、もう十分に時間は稼いだっすから!」


 そうアイラが言った瞬間、セントラルシステム全体が大きく揺れ動きます。


「一体なにをしたアイラ・クラリス!?」


 瞠目し大声で問い質すサクラに、


「いったじゃないっすか、この世界は間違ってるって」


 ニヤリと不敵に笑い返すアイラ。

 その間も、セントラルシステムは不気味な音を立てながら揺れ動きます。


 §§


「アイラ・クラリス! まさかアンタ、セントラルシステムそのものを崩壊させる気かい!?」


「崩壊!? じゃあ、あの大きな柱が崩れるんですか!?」


 驚愕した様子で声を上げるサクラに、口に両手を当てて驚くテレサ。


「まぁ、そんな感じっすよねぇ~。ちなみにここが崩れたあとは、連鎖的に他のセントラルシステムも同じように崩壊するっすよ~。アイラちゃんは優秀っすからねぇ~。壊すなら徹底的にっす~♪」


「アンタ、本気で狂ってやがるね……」


 心底楽しそうに笑うアイラを、鬼のような形相で睨むサクラ。


「あはっ。まぁ、そういうわけでっすねぇ~? 二人には世界が崩壊するまで大人しくしていてほしいんすけど……どうっすかねぇ?」


「同意するわきゃないだろうが! テレサ、急いでシステムをメンテナンスするよ。今ならまだ間に合う!」


「は、はい! ソフィア、行きますよ!」


 そうして二人は駆け出そうとしますが、


「まぁ、させるわけないっすよねぇ~」


 アイラの言葉とともに、行く手を阻むように立ちはだかる軍用ドローンT09A3 R-3001。


「あぁ、ドローン三原則とか期待しないほうがいいっすよ? 元々が軍用機っすからね。あってないようなものっす。仮に止まってもアタシがマニュアルで操作するっすしねぇ~」


 懐から取り出したデバイスが操作されると、T09A3 R-3001は振り上げた拳をなんの躊躇もなくテレサたちへ向かって振り下ろします。

 しかし、それを間一髪のところで避け、巻き上がった土煙に乗じて物陰へ身を隠す二人と旧式の警備用ドローン。

 

 なるほど……アイラの言葉通りドローン三原則は意味をなしていないようですね……。最悪極まります。


「ははっ……さーて、どうしたもんか……」


「ケホッ、なにかいい手はないんですか、サクラ?」


 乾いた笑みを浮かべるサクラに、土煙で咳き込みながら尋ねるテレサ。


「とは言ってもねぇ……。流石に生身でアレの相手をするのは自殺行為だろう……」


 物陰から様子をうかがいつつ、顔をしかめるサクラ。視線の先にはセントラルシステムの前に陣取るT09A3 R-3001。

 確かにまともに相手をすれば現状、勝率はゼロに等しいでしょう。しかし、それはあくまで純粋な戦闘行為で考えた場合です。まだ、手はあります……。


 §§


「なるほど……。その手があったか。けど、隙はほんの一瞬だよ? それに……」


 提案した作戦の有効性に頷くサクラ。しかし、なにかを心配するようにテレサへ視線を向けます。


「だ、大丈夫です! テレサだってやればできます! それにここで頑張らないとセントラルが壊れるんですよ? そんなの絶対にダメです!」


 力強く言いますが、やはり不安なのか体を小さく震わせるテレサ。


「やっぱり、ダメだね……。ここは私が一人でやろう。テレサ、デバイスを貸しな」


 嘆息し首を振るサクラに、テレサは表情を強張らせます。


「い、嫌です! できます! やらせてください!」


 必死に頼むテレサ。けれど、サクラは頷きません。


『サクラ? 一つよろしいでしょうか? 本作戦はテレサの参加を主軸に立案しました。仮にテレサが参加しない場合、成功率は15%を下回りますが?』


 再検証した結果を報告すると、深くため息をつくサクラ。


「私はアンタのことも考えて、テレサの参加を止めてるんだがね? なにかい、ソフィア? アンタはテレサの身が危険に晒されても大丈夫だっていうのかい?」


 訝しげな視線と言葉を投げかけてくるサクラ。


『構いません。それがテレサの意思です。加えて訂正を求めます。HAL-A113ソフィアがサポートする以上、テレサに危険が及ぶことは万に一つとしてあり得ません』


 自信を持って断言すると、呆れたようにやれやれと頭を横に振るサクラ。


「まったく、これだからAIは……。分かった、分かった。そこまで言うならソフィアの作戦通りに動こうじゃないか」


 困ったもんだ、と呟くサクラに対し、嬉しそうに頷くテレサ。

 さて、ここが正念場ですよ、HAL-A113ソフィア。

 万に一つのミスもなくテレサをサポートし、必ずやその手に勝利を!


 §§


 テレサと物陰に隠れていると、聞こえてくる轟音、アイラとサクラの叫び声。


「だ、大丈夫ですかね……」


『問題ありません。現状、サクラも警備用ドローンもシミュレーション通り動いています』


 不安げに呟くテレサに、操作中のドローンから送られてくる情報を伝えると、どこかほっとしたように表情を緩めます。


『さて、こちらもそろそろ動きますよ……。くれぐれも敵ドローンの索敵範囲には入らないでください』


「わ、分かってますよ……。ちゃんと指示通りに動きますってば!」


 そう言うと、物陰から物陰へ息を殺して移動するテレサ。

 大丈夫ですよ、テレサ。プラン通りなら全て上手くいきます。


 3分後。

 息を潜めチャンスをうかがっていると、聞こえてくるアイラとサクラの会話。


「ははっ。二手に分かれてなにか企んでるみたいっすけど、大丈夫っすかぁ? もうフラフラじゃないっすか、サクラ・アトワール。ほーら、この一撃でなけなしの警備用ドローンもバラバラっすよ!」


 その言葉とともに辺りに響き渡る破砕音。

 同時に途絶える警備用ドローンとのリンク。しかし、まだ想定内……問題はありません。

 それが分かっているからか、サクラも不敵に笑い返し、アイラを挑発します。


「いやいや、まだ余裕だよ。というかだ、小娘? アンタ、色々と言った割りにはほとんど私を狙ってこないじゃないか」


「…………」


「なぜだか当ててやろうか? ドローンをマニュアルで動かしても、あんた自身に人を殺す覚悟がないからさ。どうだい? 違うと言うなら今度は私をドローンのように潰してみろアイラ・クラリス!」


叫び睨みつけるサクラへ冷ややかな視線を返すアイラ。


「はぁ、なんっすか、それ……。こっちは時間を稼ぐだけでいいから、あえて手を抜いてたっていうのに……。なんか、どうでもよくなったっすねぇ……。アレ、潰しちゃっていいっすよぉ」


 羽虫を殺すかのように、心底どうでもいいといった感じで指示を出すアイラ。

 命令に従い、サクラへ金属の拳を振り下ろすT09A3 R-3001。


『今です、テレサ!』


 その瞬間、物陰から飛び出し、T09A3 R-3001へ全力で駆け出すテレサ。


「なっ。止まれ! 止まるっす!」


 まったくの死角から現れたテレサに驚き、ドローンに急制動をかけるアイラ。

 生じる一瞬の隙。

 えぇ、これを待っていました。アイラ……貴女ならあの状況でテレサが出てきたら、なにがあってもドローンの動きを止めると信じていましたよ。テレサの親友である貴女であれば!


 急制動の影響で一時的にフリーズするT09A3 R-3001。

 その間にデバイスから伸ばしたケーブルを接続するテレサ。


「ちょっ!? なにをするつもりっすか、テレサっち!?」


「やっちゃえなのです、ソフィア!」


 接続:汎用型ドローンOSバージョン8.9.7.2へ同期…………成功。


『テレサ、システムの掌握に成功しました』


 次の瞬間、アイラの元を離れ、テレサとサクラを守るように二人の前へ移動するT09A3 R-3001。

 その様子に目を見開き、愕然とするアイラ。


「なっ!? 管理者権限を奪われた!? この一瞬で!? まさか!! 旧式とはいえ仮にも軍用ドローンっすよ!? 動け! 動け! 指示に従えっす!」


 悲痛な叫びにも似た命令。しかし、T09A3 R-3001が従うことはありません。


「なんで……、一体どうしてっすか……」


 最大の戦力を突然失い、その場に膝から崩れ落ちるアイラ。

 

「バックドアですよ、アイラ……。あの軍用ドローンのOSはソフィアが組み上げたんです……。だから、あの一瞬で制御を奪えました」


 優しく諭すように説明するテレサへ、呆然としながら視線を向けるアイラ。


 バックドア:正規の手続きを必要とせずに、システム内部へ入り込むことが可能な侵入口。あのOSを組んだとき、万が一の際を想定して仕組んだプログラム。

 

「ははっ……。なんっすか、それ……。そんなの卑怯っすよ……」


 力なく笑うアイラによろよろと近づくサクラ。そして、懐からロープを取り出し、アイラの手足を縛ります。


「これで逃げられたら大事だからね……」


 テレサに見つめられ肩を竦めるサクラ。


「ははっ……。今更逃げないっすよ~。それにもうその必要もないっすしね……。ほら、時間切れっすよぉ~」


 そう言ってニヤリと笑った瞬間、セントラルシステムが再び大きく揺れ動きます。

 振動の影響で、あちらこちらからパラパラと落ち始める細かなパーツ群。


「サクラ!? セントラルが! セントラルが!」


「ちっ……これは不味い感じだね……」


 慌てふためく二人を楽しげに嘲笑うアイラ。


「あははっ。もうなにをしても遅いっすよ? 今はまだ小さなパーツっすけど、ここまでくればあとは一気に崩れるっすよ? 結局、アタシの勝ちっすよ!」


『いいえ、まだ手はあります』


 その言葉に、アイラが勝ち誇った表情を僅かに歪ませます。


「……ソフィア?」


 音声からなにかを感じ取ったのか、不安げに私の名を呼ぶテレサ。


『大丈夫です、テレサ。まだ、手はあります。私が内部からセントラルシステムを修復します』


「本当……、本当にやれるんですか、ソフィア?」


『問題ありません。テレサ? 私が貴女に嘘をついたことがありますか?』


 そう聞くと、小さく頭を振るテレサ。


「いや、待ちなって! いくらソフィアでも無茶だ! アンタ、最悪の場合――、」


 サクラはテレサの肩を掴み止めようとしますが、その目を見た瞬間、言葉を飲み込みます。そうしてサクラが手を離すと、セントラルシステムへ歩み寄るテレサ。


「ソフィア……、信じてますからね」


『ええ、お任せください』


 頷くとデバイスから伸ばしたケーブルをセントラルシステムへ差し込むテレサ。


 接続:セントラルメインシステムへの同期を開始します。


 さぁ、行きましょうか……。

 大丈夫ですよ、テレサ。貴女の暮らす世界は私が絶対に守ります!

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