File.7 侵入者

 サクラの話を聞き、完全にフリーズするテレサ。

 彼女にしてみればそれは予想外の敵だったのでしょう……。


 テレサは生まれてから今までセントラルの外へ出たことがありません。現実世界のセントラルと電脳仮想空間のザナドゥ、その二つだけで生きてきた彼女です。

 時折、ニュースで知る外の情報は現実感に乏しく、ましてナチュラルに対する危機感など考えたこともなかったのかもしれません……。


 それを突然相手にしろと言われたら、これは無理からぬ反応でしょう。


「まぁ、とりあえず……そうだねぇ。今日のところは仕事の流れを憶えてくれればいいさ。初めての現場はいつだって戸惑うからね……」


 だからなのか、サクラは特に指示を出すこともなくモニターに向き直ります。

 再び響くキーボードの音、忙しなく切り替わるモニターのタスク群。

 けれど、テレサは未だにフリーズ中。今日中にリブートできるでしょうか?


 §§


 30分が経過しても毛布に包まりジッとしているテレサ。

 視線は状況が目まぐるしく変わるモニターの文字列を追いかけ続けています。


 これは……フリーズしていると思っていましたが、もしやプログラムコードを読み続けているんでしょうか?

 

 そうして観察を続けていること数分、


「いました……」


 ポツリと呟きモニターに表示されたあるウィンドウを指し示すテレサ。その間にも膨大な量の文字列が流れ続けていきます……。


「ん? なにがいたって、お嬢ちゃん?」


 訝しげな様子でウィンドウを確認するサクラ。

 次の瞬間、その目が驚いたように見開かれます。


「へぇ~。やるねぇ、お嬢ちゃん。いや、テレサだっけか……。まさか私が気づいてない侵入者を見つけるなんて……どうやったんだい?」


 感心しながらもどこか探るような眼差しを向けてくるサクラを、


「パターンを憶えました。テレサだってこれぐらいはできるんですよ!」


 ふふんっと鼻を鳴らし得意げに見つめ返します。

 いつの間にリブートしたのでしょう、この子? というかパターンを憶えた? これは、テレサは予想以上に優秀なのかもしれません。


「ははっ。マックスのヤツが送ってきた理由が分かった気がするよ。さて、見つけたはいいが……これは厄介だね。もうだいぶ深くまで侵入してるじゃないか……」


 テレサをちょっと見直していると、ウィンドウを眺め苦々しげな声を漏らすサクラ。気になって覗いてみると、確かに敵はザナドゥを経由してセントラルへ侵入を試みているようです。


「さっきみたいにポンッと駆除しないんですか?」


 問いかけに首を振るサクラ。


「ここまで深いと無理だね……。敵さんもなかなかのやり手らしい。それでもセントラル内からのアクセスならリアル側を制圧すれば事は終わるんだが……」


「やっぱり外からなんですか? じゃあ、一体どうすれば?」

 

 不安げにモニターの表示するウィンドウへ見つめるテレサ。


「なに、簡単だよ。前にテレサがやっていたことと変わらないはずさ……。私たちも潜って直接叩けばいい」


 そう言ってニヤリと笑うサクラはどこか楽しげに見えます。

 

「コフィンは奥の部屋にあるから自由に使いな。私には必要ないからさ」


 指で示す先には確かに見慣れたあの棺のような巨大マシンの姿が。


「分かりました……。でも、サクラはどうするんですか?」


 確かに……。この部屋にコフィンは一基しかありません。サクラはどうやってシステム内へ侵入するつもりでしょうか?

 テレサと一緒に困惑していると、


「私はこれを使うから問題ないさ。ほら、早く行った、行った!」


 モニターの下から取り出されたのはフルフェイス式のヘッドギアとマニピュレーターを彷彿とさせるグローブ。これは……驚きましたね。旧時代のバーチャル用デバイスです。


 説明するとテレサも目を見開きます。

 疑うわけではありませんが、アレで本当に大丈夫なんでしょうか?

 

 と、サクラの心配をしている場合ではありませんね……こちらもテレサを中へ送る準備をしなくてはいけません。


 接続:Klein-1999のシステムチェックを開始します…………………………完了。Klein-1999は正常に稼働することができます。


 チェックの終了を告げると、コフィンの中に毛布ごとすっぽり収まるテレサ。

 いえ、別にいいですけど……そんなに気にいたのでしょうか?


 さておき、ではこれよりシステムへのダイブを開始します。テレサ、頑張ってくださいね。サポートは全力で行いますので!

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