第24話 セカンダリースキルの覚え方
「限界ないんだ……」
私はエノクの言葉を聞いてそう呟いた。
逆に言えばMPが続く限りその能力に力を注げるという事だ。なるほど……これはバッドステータスが付くのも当然ね。レベルが高い人でINTが高ければ高いほど、その効果も天井なしに上がっていく。
正直言って恐ろしいわね。あまり考えたくないことだけど高レベルの魔法使いならやろうとすればプライマリースキルを使ってとんでもない悪事をしでかすこともあるかもしれない。
今まで何となくプライマリースキルはセカンダリースキルよりちょっと使える程度のスキルだと思っていたけど、根本的にこの2つのスキルは違うものだと認識を改めたほうが良さそうね。
「ありがとう。おかげでこの書物の意味は分かったわ」
「うん。また、何かわからないところがあったら聞いてね」
私はエノクにお礼を言った後、この2つのスキルについて改めて考えることにした。彼も彼で先ほどの続きを何か考えているようだ。テーブルの手前にある椅子に腰かけて、なにかの計算を始めた。凄い速さで鉛筆を走らせている。
……邪魔しちゃ悪いわね。 私もちょっと考えてみましょう。
私は顎に手を当て、考える姿勢を取った。
私はグロースとミニマムをプライマリースキルとして持っている。エノクはこの2つの魔法をセカンダリースキルとして使っても使いこなせれば強力なスキルだと言っていた。だから、魔法の効果事態は悪いものではないんだろうとは思う。
しかし、問題がここで2つある。”縮小化”という最悪のバッドステータスが付いてきたことと、その効果の程度を上げるためには飛躍的な魔法効果が必要だという事だ。
私は目の前に置かれた研究書物のリストの一番上の方を見た。ある欄を見ると、倍数の列に”1.2”と書いてありその横の数字は"1052"と書いてある。つまりこれは対象を1.2倍に巨大化させるのに必要な魔法効果は”1052”と読み取れるというわけだ。
どういうことよ・・・これ
現状の私のMPは"5"そしてINTは"1.2"これを使って魔法効果を計算してみると、私の魔法効果=1.2×5÷5=1.2 ということになる。
つまり、魔法効果が1.2しか現状出せないのだ。ステータスの値が1/10になっていることを考えたら、あまりにも遠い数字だ。
正直こんなのやってらんないわよ……
レベルアップを後何回しないといけないのかしら?早くセカンダリースキルを覚えて他の芸を身に着けないと、私本当に役立たずで終わっちゃう……
私は頭を抱えて唸った。
「……はぁだめね……」
「……はぁだめだ……」
エノクと声がハモッた。お互い思わず顔を上げて見合わせる。
「……どうしたのよ?」
「いや、そっちこそ……」
お互いがお互いを譲り合う形になった。
…………
しばらく沈黙が続く。
「ぷっ……」
「ははっ」
お互いなんかおかしくて吹き出してしまった。別にこんなこと隠してもどうしようもないことなんだけどね。
彼に聞いてみるか……
「それなら私から悩みを聞いてもらっていい?」
私からエノクに持ちかけた。
「もちろん。レディファーストでいいよ」
彼は柔和な笑顔と共にそれを受けてくれた。さっきまでの私の悩みがそれで若干和らいだ。彼の人懐っこい笑顔はいつも私を癒してくれる。
「それなら、お言葉に甘えさせてもらうわね?」
そう言って私は前置きをした後、セカンダリースキルの覚え方について尋ねてみた。
「セカンダリースキルの覚え方か……実はこれって明確な覚える条件っていうのはまだ分かっていないんだ」
エノクがそう答えた。
「えっそうなの?」
なんか、意外。
みんなどうやって覚えているのかしら?
「魔法科学的に数式とかだと証明されていないってことなんだ」
「でも、経験則的にはこうすれば覚えられるっているのはあるよ。それでよければ教えるね」
あ、なんだそういうことか。さすがにそうよね。
「うん。それでいいわ。教えてもらえる?」
エノクは私の言葉に頷くと説明を始めた。
「まずセカンダリースキルを覚える条件として、自分のMPを超える最低コストの能力は覚えることは出来ない。これは確実に言えるね」
あ、それは以前にも聞いたことある。
一応”あいつ”の言っていたことは正しかったのか。
「また、覚えるタイミングとしてはレベルが上がった時だ」
「その時覚えられるセカンダリースキルは、一度実際に本人が見ていて、十分にその能力をイメージしているものだと言われている」
……なるほど
誰かに教えてもらうなりバトルで相手の能力を見ることが必要となるわけか。
エノクはさらに続ける。
「イメージが出来るという事はそのスキルを欲する事にも繋がる」
「セカンダリースキルを覚えることが上手い人は欲が多い人とも言われているんだ」
欲望が多い人……
なんか嫌な言い回しだけど、感覚的には分かるわね。望むものが欲しければ、まず欲することからはじめよという事か。
「まあ、大まかにはこんな感じだね。他にもいろいろな仮説は言われているけど、それはおいおい説明するよ」
「レベル上げを行うという当初の方針には変わりはないね」
「ありがとう」
レベルが上がった時にセカンダリースキルを得られるという事は、レベルが上がりやすい初期の段階程覚えられやすいってことなんじゃないの……?
これは後で巻物を確認して、どういう能力が欲しいのか自分の中で固めておいた方が良いわね……
時間があったらエノクにもなにか能力を見せてもらいましょう。私は自分の中の今後の方針をあらかた固めた。
ところで……
「……それで、エノクの方は?」
「……えっ?」
エノクの方は私の言葉に不思議な顔をしている。
「いきなり何の話だい?」みたいなことを言い出しそうだ。上手くしらばっくれようとしているのだろう。
……そうはいかないわよ。
私の悩みを聞かせたんだから、あんたの悩みも聞かせてもらうわよ。
「えっじゃないわよ。悩みがあるんでしょ?」
「ほらっお姉さんに言ってみなさい!」
私は胸を張って頼れるお姉さん像を演じてみた。
「お……お姉さん……?」
エノクがええっ……という顔をしている。
なによ……その反応は
「私の方が年上なんだからお姉さんでしょ?」
「いや、まあそうなんだけど・・なんかそう見えなくて……」
「はいい?」
ちょっ……いや、それって私が頼りないって事……?
そりゃ私は今こんな状態だけど、人の悩みくらいは聞けるわよ。
「ほら、いいから、言ってみなさい!言わなきゃ話が進まないでしょう?」
私は少し強引に彼に迫った。
「うん……。まあ、そこまで言うのなら話してみようかな……」
渋々だが彼は話すことを受け入れたようだ。どうも私に直接言うのを躊躇っていたような節がある。
これはまたあんまりよくない話かもね……
彼とこの2週間付き合ってきて分かったことだが、エノクは私に降りかかっている不幸な事を明かすとき話すのを遠慮してしまう傾向にある。
こちらが急かしたりすると話してくれるが、基本はこちらが促がさないとそういう事は言ってくれない。最もそれはこちらを傷つけたくないという彼の善意であることは分かっている。
だけど、私にとってはそれは自分に纏わる事なのだ。自分の事は自分で決めたい。何が起こっているのかを知ったうえでどうするかは最終的に自分で判断したい。
私が改めてそう覚悟を決めていると、エノクはゆっくりと話し始めた。
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