第16話 魔法少女になった私




 ”ミニマム”




 こちらの方はまだ試していない。”グロース”があれだから正直これも期待できない。しかし、もしこれが役に立つのなら身を守る武器になる。危機が襲い掛かってきたとしても、これを使えば危機そのものを小さくすることが出来るだろう。


 よし……物は試しだ。もしかしたら、大いに役に立つ可能性だってあるのだ。そう思い立った私は巻物を取り出して自分のMPを確認した。




 ”MP:5"




 よし、回復しているわね。


 ミニマムも最低MPコストが<5>だから今は使えるはずよ。


 ……そういえばMPってどうやって回復するのかな……?


 寝れば回復するの……?


 それとも時間が経てば勝手に回復していくの……?


 これがもしゲームとかだったら、宿屋で寝れば回復するのが定番だけどこの世界ではどういう風になっているの?


 まあ、いいわ。これは後で検証するとして今はこれを使ってみましょう。


 小さくする対象はどれにしようかな?




 私はアタリを見回してみた。目の前には私が先ほどまで眠っていた星形の箱がある。


 とりあえずこの星の箱でいいか。


 どうせ時間が経てば元に戻るだろうし、持ち運ぶことが出来るくらい小さくできればかなりうれしい。寝床としてこの星の箱を優秀だ。携帯できるのならそれに越したことがない。そう考えた私は、手のひらを目の前の星形の箱に向けて掲げた。

 後は魔法を唱えるだけだ。




 …………




 詠唱する時になんか振り付けとかやった方が良いかしら?

 せっかく魔法を使うんだ。魔法少女がよくやるようなポーズとかやった方が効果が上がるんじゃない?

 魔法っていうんだからなにか精神的な力が働くと思うの。集中力を高めて、自分の中の精神を奮い立たせるようなことをした方が良いのかもしれない……


 私は瞳を閉じて、魔法少女がよくやるようなポーズを取った。


 そして、詠唱を始める……




「星の形をせし箱よ……縮小した真の姿を我の前に示せ!契約のもとレイナが命じる……!!」




 ごおっ……と私の中で魔法力が盛り上がっていくような気がする……


 無限大の力が私の手から放たれるイメージが想像できる……


 私はアルファでありオメガである……


 これは……行ける!


 行けるわよ!!!




 私は手を掲げ、あの伝説の呪文……!


 ミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトンスペルをとなえた!




「ミニマム!!!」




 眩いばかりの光がほとばしる!!


 ピカーああああああ!!!っと私の手から無限大の力が放たれた!!!……ような気がした。




 チュン………







 はいダメでした。

 縮んだのかどうかすら分からない。なんとなく、縮んだような気もするけど、ほとんど誤差の範囲。ていうか、今の私の恥ずかしい詠唱を返してくれない?


 なんの意味もなかったんだけど……


 私はガクっとうなだれた。昨日から何回目よこれ……


 はあ……これじゃ両方の能力を当てにできないわね。仕方がない。武器については何かで代用しましょう。なにかないのかしら……?


 そこで私はふっと、ある日本昔話の小人の話を思い出した。


 そういえば一寸法師は針で鬼を倒したんだったわね……あんなものでも、一応武器にはなるか……

 外敵はなにも人間だけに限らない。ありとあらゆるものが私に襲い掛かってくる可能性がある。身を守る武器と盾は必須だ。


 針そこらへんに転がってないかな……?


 辺りを少し探索してみる。窓が破損していて、外の風雨が中にまで入ってきているようだ。雨漏りはもちろん、木の枝が床にいっぱい落ちている。針を見つけることは出来なかったが、これは武器になりそうだった。


 今はこれで我慢するしかないか……


 私は木の枝の中でも、一番頑丈そうで、先が尖っているものを拾った。私の身長より大きい木の枝だった。結構重たい……


 だが、これなら槍代わりになるだろう。これを携帯して、外に行くとしよう。

 窓の破損と同じく、玄関のドアも破損している。外への出入りは自由に出来るようだった。物盗りにでもあったんだろう。自然の影響で壊れたものだとはとても思えなかった。


 どんだけ治安悪いのよ……ここ


 これまで日本に暮らしていた私にとっては文字通りここは異世界の環境だった。出来れば外をうろつきたくなかったが、日々の糧を得なければいずれ餓死してしまう。優先目標としては、まずは水の確保だ。食料はなくても1週間以上は生きられるだろうが、水がなければ数日と持たない。




「まずは、水場がある場所を探してみましょう」




 私は未知なる外の世界へと探検を始めた。そこに待ち受けているのは光か闇か。希望か絶望か。生か死か。まだ、私にはまったく分からない。だが、私はその最初の一歩をこうして踏み出した。


 人類にとっては小さな一歩でも私にとっては大きな一歩だ。



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