第11話 バッドステータスの正体




 ドンドンドン!!!


 ドンドンドン!!!




 この家の玄関を激しく叩く音が聴こえてきた。




「レイネス兄弟!いないのか!?いるんだろ?出てこい!」




 門を叩く者の声も聴こえてきた……


 明らかに声の調子が厳しい。




「……ちっ!今日も来やがったか……」


「アニキ、どうしよう……?」


「お前は妖精を見ていろ……」




 そう言って、兄は玄関の方に向かっていった。弟は黙ってうなずき、こちらを見ている。兄の方は玄関の前に来ると、玄関を開けずにそのまま返事をした。




「……なんだ?今日はもう店じまいだぞ」




 それを聞いた訪問者は明らかに不機嫌な声を出して言った。




「その声は……兄の方か……?ここを開けろ……」


「あいにくだが、こっちは今取り込み中でね。要件があるならドア越しに言ってくれ」


「……ふざけるな!!」




 ドンっ!とまた玄関の音が叩かれた。相当荒ぶっているわね……

 

 まあ、気持ちは分からなくもないけど……

 

 幾分か私も気分が落ち着いてきた。




「貴様の借金の返済期日がとっくに過ぎているんだ!!!今すぐ返せ!!」




 これに対し、兄も負けずに激昂して言い返した。




「だから今金を調達している最中だって何回も言っているだろう!!もうちょっと待てや!!」


「その言葉何回目だ!?もう信用せんぞ!!早くあけろ!!」




 門を開けないで正解ね……


 これは開けたら血を見るわ……




 その後もドア越しに二人の罵倒はしばらく続いた。


 ところが……




「……ここをどうしても開けたくないのか?」




 ある時点で訪問者はさっきまでとは打って変わり急に低い声になった。だが、その声は身も毛もよだつような恐ろしさを秘めていた。とても穏やかな感じで言っているとは思えない。




「今は取り込み中だって言っているだろう……。借金は近日中に返すから、もうちょっと待ってくれ」




 訪問者の声の異変に気付いたんだろう……兄の方も声のトーンを落として回答した。


 訪問者はさらに同じ調子で続けた。




「貴様とのやり取りも、もうこりごりだ。これ以上貴様たちに付き合ってられん……」




 そう言って訪問者は一瞬諦めたような声の素振りを見せたが……次の言葉でそれが誤解だと分かった。




「私はお前たちの借金回収を”ベレトギルド”に依頼させてもらった。」




 そう訪問者は告げた。


 ベレトギルド?なにそれ?


 だが、この兄弟たちはその意味を分かっているようだ。弟の顔はいつの間にか真っ青になっている。兄は後ろ姿しか見えないが、ふるふると震えているようだ。




「ま……待ってくれ!お前まさか……あの”悪魔”のギルドに依頼したってーのか!?」


「そうだ。奴らは金さえ払えば依頼したことは必ず成し遂げる。例え相手がどうなろうがね」




 それを聞いて、兄は絶句した様だ。訪問者はさらに続ける。




「ギルドが動くのは1週間後だ。後、3日だけ待つよ。それまでに耳を揃えてお金を返したまえ。さもないと……」




 そう言って、訪問者は一旦言葉を切った。

 兄はその沈黙に堪えきれなかったんだろう……たまらず訪問者に訊き返した。




「さもないと……どうなるってんだ!!」




 それに対し訪問者は静かに続けた。




「ここの家と、1階にある君たちが両親から受け継いだお店は競売に掛けられるだろうね」


「もし、それでも足りなった場合は君たち自身の体で贖われることになるよ?フフッ…最悪死ぬかもしれないね」


「そ……そんな……」




 兄の方はショックを隠せなかったようだ……弟の方もぶるぶると震えている……




「それでは、私はこれで失礼するよ。3日後までに是非お金を返してくれたまえ。こっちだってギルドに高い金を払うのは嫌なんだ」




 そう言って玄関の外の訪問者は去っていった……




 玄関から戻ってきた兄の巨人は顔面蒼白な顔をしていた。弟の方もそれは同じだ。




「あ……アニキ、どうするんだよ……」


「ああ、くそっ……あのクソジジイめぇぇ……」




 ひそひそと話が聴こえてくる。兄が戻ってくると、彼らは向こうの部屋に引っ込んで話を始めた。ここがダイニングルームで向こうがベッドルームだろうか?

 ようやくこの家を見渡せる余裕が出来たので辺りを確認してみた。


 ここはダイニングルームのテーブルの上だった。もちろん籠の中だけどね……

 近くには街の風景がうかがえる窓がある。外はもう暗闇が下りて、月の光が辺りを照らしていた。どうやらこの世界にも月は存在するようだ。先ほど噴水広場にいた時は夕方だったから、あれから2時間以上は過ぎただろうか?

 

 意外にも、彼らはぼろぼろの姿をしているのに、住んでいる住居は随分と広くて立派だった。部屋も5カ所以上ありそうだ。もっとも、家の広さに比べ家具が極端に少ない気がするが……

 

 まあ、そんな事は正直どうでもいいわね……


 ようやく彼らから私の注意が逸れたんだから今が逃げるチャンスよ。



 …………




 ただし、逃げる前にどうしても確認しておかなければならないものがあった。

 本当はこの世界に来てからすぐにでも確認したかったが、状況が状況だったゆえに確認できていなかったものだ。私は自分の衣服に隠していた例の”巻物”を取り出した。


 そして、巻物を広げ一番下を見にいった……







◇転生者基本情報



名前:遠坂 玲奈(とうさか れいな)

年齢:18歳(寿命:未設定)

身長:17.5cm

体重:52.5g

BWH:8.7 5.6 9.0


Lv:1

HP:5

MP:5

STR:3.1

DEF:1.6

INT:1.2

VIT:2.0

CRI:0.5

DEX:1.7

AGI:4.8

LUK:1.0



プライマリースキル:グロース、ミニマム

タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション

バッドステータス:1/10縮小化(永続)

所持アイテム:転生者の巻物

所持クレジット:0


現在位置:クレスの町 シルバー通り254番地 レイネス商会2F


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 やっぱり、そういうことか……


 私はある程度予想していたとはいえ、結果に愕然とした。嫌な方に予想が当たってしまったのだ。

 

 【バッドステータス】は巻物を見たらわかるというのは例の”自称”神が言っていたことだ。だから、巻物を広げて見てみたのだが、そこにはこう書かれていた。




”1/10縮小化(永続)”




……そう、別にこの世界の人間が巨大なのではない……


私が縮小してしまったんだ……


しかも、永続的に……!



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