幽霊&&勇者
青桐
第1話
深夜2時の駅のホームに、高校2年生の美少女・神宮可憐はいた。
可憐は全身真っ黒の巫女服を着て、薙刀を構えている。
正直、異様としか言えない格好だが、コスプレにはない気迫を纏っていた。
可憐が口を開く。
「この変態幽霊。
いい加減成仏しなさい」
「嫌や。俺は、彼女が1人もできたことがないのに死んだんやぞ。
せめて、せめて彼女が欲しい‼︎」
彼女以外いないはずのホームに、悲痛な叫びが響く。
霊感のある人には、割とイケメンのスーツ姿の青年幽霊・山田陽一が見えるはずだ。
まあ叫んでいることは残念極まりないが。
「いやあんた、もう死んでるから。
彼女とか、幽霊しか無理でしょ。
なんなら、向こうにいる人とかを口説けばいいんじゃない。
一緒に成仏しなさいよ」
少女が差した先には、長い髪で顔のほとんどを隠した女性が立っている。
髪の隙間から僅かに見える口は、ブツブツずっと動き続けていた。
「俺、おしゃべり過ぎる人は、タイプじゃないねん。
生きてたのは22年。死んで5年。ちょっと理想は高めなんや」
青年幽霊は胸を張る。
「そもそも、あんたが感じてる性欲が勘違いだから。
それなのに、生きてる人にセクハラばかりして。
私みたいのが何人呼ばれたと思ってんのよ」
目を吊り上げて可憐が叫ぶ。
薙刀もった黒ずくめの美少女が、深夜2時に叫べば幽霊よりも怖い。
しかし青年幽霊は、平然と指を折って何かを数えていた。
「最初と真ん中くらいのはインチキやったし、本当に俺と会話できるやつは、10人、やったかな。君含めて」
「フザケンナ。
そんなのどうでもいいわ。
この駅、女性が使いたくない駅No.1になってんのよ。
死んでまで迷惑かけんじゃないわよ。
あなた、自殺したんでしょ」
「聞かれたことを答えただけやのに。
思春期の女の子は怖いわー。
もしかして、女の子の日?」
「死ね」
「もう死んどる」
美少女が突き出した薙刀を、ひらりと幽霊は避けた。
その幽霊を追って凄まじい突きが連続で繰り出される。
「突っ込みキツすぎや。
ちょっとした小ボケやん」
「自殺したなら、さっさとあの世に行くべきよ」
青年幽霊が真面目な顔をした。
「俺は自殺してへんよ。
俺はキラキラの社会人として、頑張ってたんやよ。でも、仕事のある日の睡眠時間は2時間。それが3ヶ月続いてな。
土曜出勤は当たり前。
そんな感じで、がむしゃらに働いてたんよ。
そしたらある日、『線路に降りたら楽になるなぁ』って思ったのは事実や。でもな、自殺はしてない。
急に意識が遠のいて、気が付いたらこの有様やったんや。
自殺やないで」
美少女が薙刀を止めた。
「まあ、それには同情するわ。
労災が降りて、あなたのいた会社が全ての責任をとったらしいから、あなたは家族には迷惑をかけていないわ。
安心して成仏しなさい」
「せやろ。俺は家族には迷惑掛けへんねん」
青年幽霊は、美少女の胸に向かって手を伸ばす。
「なら、他の人にも迷惑かけんな。痴漢野郎」
美少女は薙刀で手を切り払おうとする。
それをまたしてもひらりとかわす青年幽霊。
「ええやん。減るもんやあらへんし」
その言葉と同時に不思議な魔法陣が、痴漢幽霊の足元を中心に覆った。
その魔法陣には、美少女も巻き込まれている。
「なんやこれ」
「なにこれ」
光が2人を塗り潰した。
数秒後、光が消えた後には、2人の姿はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます