【Web版】異世界から聖女が来るようなので、邪魔者は消えようと思います

蓮水 涼

第0話 序章


 大国グランカルスト。

 大陸のおよそ三分の一の領土を持ち、先々代国王が野心溢れる性格だったため、その御代が終わるまで血生臭い国家として恐れられていた国である。

 それが先代国王に代替わりすると、今までは"外"に向いていた世界を誇る軍事力が、今度は"内"に向けられた。

 外ばかりを見ていたせいで、内政がおざなりになっていたからだ。

 賢王として名を馳せた先代は、しかしすぐに己の息子に王位を譲ることになる。

 そうして、今日、ついに新たなグランカルスト国王が即位した。

 兄王子の――正しくは兄元王子の晴れ舞台に、フェリシアはおよそ似つかわしくない青褪めた顔で、目の前の人物を凝視する。


「うそ……でしょう……?」


 ぽつりと零れた情けない声は、一人だけの部屋にやけに大きく響いた。

 大国の第二王女として生まれたにもかかわらず、彼女の部屋に侍女はいない。

 騎士もいなければ、メイドすらいない状況だ。部屋だって、とても王女殿下のものとは思えないほど質素で、狭く、下級使用人のそれと間違えてもおかしくないくらいである。

 けれど、それを彼女が気にしたことはなかった。

 物心ついた頃から使用人のような扱いを腹違いの兄姉弟妹きょうだいたちから受けていたので、今さらそんなことを嘆くつもりもない。

 だから、フェリシアが驚き、途方に暮れそうになったのは、全く別の理由からだった。

 目の前にいる、いや、目の前に、肖像画の人物。

 その人物を見たときに、脳に衝撃が走った。

 蜂蜜色の甘い金髪。ヴァイオレットサファイアの高貴な瞳。甘さと凛とした雰囲気が合わさっているからか、肖像画だけでも至高の存在のように感じられる。


 ――クロード・エルヴィス・シャンゼル


 小国シャンゼルの王太子。

 まるで話に聞く走馬灯のように、様々な記憶が浮かんでは流れていく。

 それは、"フェリシア"として記憶したものではなく。

 今とは正反対の黒髪を持つ、いわゆる前世の自分が記憶したもの。

 その記憶の中で、今の自分と同じ姿をした王女は、一目惚れした王太子に失恋して自ら身を引いていた。

 そして美貌の王太子は、聖女と仲睦まじく微笑み合っている。

 つまり。

 

「私は当て馬……⁉︎」


 空は快晴。

 外は賑やか。

 誰もが新国王を祝う最中。

 ただ一人、フェリシアだけがこれからやってくるであろう未来に頭を抱えていた。

 


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