コップの中の漣

有原ハリアー

想い

 俺の彼女あいつが地元に帰ってから一か月。俺はまた会えないかと、毎日心をざわつかせていた。

「ああクソッ、落ち着かねえ! そうだ、牛乳でも飲むか……」

 小学校から、毎日欠かさず飲んでる牛乳。そして、あいつも毎日飲んでる牛乳。これを飲むと、不思議と俺の気持ちが落ちつくんだ。

「さて、これでよし!」

 コップに牛乳を注いで、俺はテーブル脇の椅子に座る。


 だが、俺の幸せな時間は一本の電話によって遮られた。


「何なんだよ、もう……!」

 やかましく騒ぎ立てる電話を止めるべく、俺は受話器のある場所まで走って行った。


     *


 元気にしてるかしら、ゆうくん。

 今は地元の大学にいるけれど、私の心は優くんの地元にあった。おかげで、目の前のランチセットも満足に食べられていない。

「けれど、食べないとね……」

 私はコップに入った牛乳を飲み、胃に膜を作ってから食べることにした。

「うふふ。今頃は優くんも牛乳、飲んでるのかしら?」

 コップをそっと置くと、牛乳がゆらゆらと揺れていた。


     *


「全くもう、詐欺まがいの電話は掛けてくるなよ……!」

 ろくでもない電話だった。俺はやり場のない怒りを発散しようと、牛乳に手を伸ばし――ん?


 何で風も無いのに、揺れてるんだ?


 中身は減っていない。

 けれど、誰もいないし、風も吹いていない。なのに、

「まさか……お化けじゃ、ないよな。それよりも……あいつ、今頃は牛乳、飲んでるのかなぁ」

 俺はコップの中の漣が止まるまで、見守ることにした。

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コップの中の漣 有原ハリアー @BlackKnight

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