ハクチョウの女王様とクジャクと風船

アほリ

1#フラミンゴの訃報

 「そうなの・・・フラミンゴのショーさんって・・・故郷のアフリカで・・・死んじゃったの・・・」


 ハクチョウの女王様は、この不思議の湖にやって来たアオサギのニードルの伝令を聞いたとたん、目に大粒の涙を流して慟哭した。


 「俺も・・・あいつの旅に一時期同行してたんだけどね・・・奴は勇敢だった・・・!!

 大海原を・・・雨風や暴風雨の中を・・・ピンク色に輝く翼で・・・うううう・・・!!」


 アオサギのニードルも感極まって、大声で貰い泣きした。


 

 フラミンゴのショー・・・



 彼は、物心ついた時からテーマパーク『N川アイランド』で、他のフラミンゴ達と一緒に飼育され見世物として華麗な演技をして、観客を楽しませていた。


 そんな日々は忽然と終わりを告げる。


 間もなく『N川アイランド』に客は入らなくなり、やがて閉園してしまった。


 行き場を失ったフラミンゴのショーは、他のフラミンゴ達と一緒に・・・引き取り先の近くの地域の動物園へ、


 ・・・逃げられないように、羽根を切って飛べないようにするなら・・・もうやだ!!


その一心で動物園から抜け出し、産まれ故郷のアフリカへ・・・


 しかし長旅の途中で、この『不思議の湖』へ迷いこんでしまったのだ。


 白鳥の女王様は、そんなフラミンゴのショーの果敢なる決意に心をうたれた。


 「あの時・・・そういえば・・・」


 白鳥の女王様は立派な翼で涙を拭うと、湖の岸辺の鬱蒼と草の茂した叢に行き、手当たり次第に鰭脚や嘴で叢の下をかきむしって、地面を掘りまくった。


 「ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!ない!」


 「そう取り乱さないでよ・・・。探してるのはこれでしょ?」


 一緒に岸辺を掘ったアオサギのニードルの嘴には、完全にゴムが劣化しすぎて固まり、ひび割れてゴムの塊と化したピンク色の割れたゴム風船をくわえていた。


 「これだわ!!」


 白鳥の女王様は、アオサギのニードルの嘴からそのゴムの塊を奪うと、ひっしと翼で抱き締め、黄色い嘴に空いてある鼻でクンクンと微かに残るフラミンゴのショーの涎の匂いを嗅いで、また啜り泣きした。


 この『不思議の湖』の主である白鳥の女王様は、ここに来る鳥達は永遠の仲間の証として、部下の鳥達が全国各地から拾ってきたゴム風船を、部下達と白鳥の女王様と一緒に嘴で膨らませ割りをする儀式をしていた。


 何故、一緒に風船の膨らませ割りをするか?


 は、単に白鳥の女王様がゴム風船が好きだったからなのだが、不慮の事故で飛べない身体となっている白鳥の女王様には、外からやって来る鳥達と遊びたい一心で、


 ・・・一緒に好きな風船を膨らませてたい・・・!!


 と、無理矢理にも風船を一緒に膨らませさせているのだった。


 フラミンゴのショーもまた、白鳥の女王様の膨らます巨大な風船と共にピンク色の風船を膨らませ割ったのだった。


 「フラミンゴのショー・・・何で死んじゃったの・・・」


 白鳥の女王様が嘆きの涙で、頬を濡らす遥か向こうの茂みには、1羽の見知らぬ鳥が飾り羽根を揺らせて、その風景をじっと凝視していた。

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