桂 歌丸師匠に捧ぐ

八雲ヨシツネ

落語家

 桂 歌丸師匠こと、椎名巌さんのご冥福をお祈りいたします。


 人間始まりがあれば終わりがあるのは世の常でございますが、笑点を見ていた身からするとやはり寂しいものですね。


 私は気が向いた時に好きなように文を書いている身に過ぎませんが、落語家の持つ言葉の力、表現力といいますか、人を話す力で物語の世界に引き込む力には驚かされるばかりです。それが話す仕事であり、長年の修行によって身につくものであることであっても、落語家として言葉で人を魅了するのは他の話す仕事とは数段と格が違うように感じるほど、落語家の持つ話す力というのは次元が違うと感じさせられるのです。

 きっかけはなんだったか。もちろん笑点を知るきっかけはテレビで、歌丸師匠を知るきっかけも笑点が最初だったことでしょう。ですが、落語家の言葉の力を知るきっかけは、ある夏の夜に落語家による怪談の放送がラジオであったのです。その時の語り手が誰で、どんな内容だったかはもう覚えていません。確か蒸し暑く寝られそうにないのでラジオを聞いていたのでしょう。最初は何も考えず眠くなるまで聞いているつもりでしたが、聞いているうちに話に引き込まれるといいますか、不気味であるはずなのに先が気になる。一言聞いたら、次のもう一言目の展開が気になるという引き込まれる話し方で、寝ることを忘れて最後まで聞き入ってしまいました。これが、落語家の持つ話す力の凄さを感じたきっかけです。

 最近では、元商業デザイナーの稲川淳二さんの怪談が有名になってしまっているような気がしますが、はなし家による怪談噺も魅力的だと思います。なぜこの話題を出したのかといいますと、先代の影響だったか記憶が定かではありませんが桂歌丸師匠が怪談噺に力を入れており、ご高齢になってもなお夏に怪談噺の席を持ちたいとどこかの番組で話しているのを見たときに、ふと夏の夜にラジオで聞いた怪談の魅力を思い出したので、今後も長く高座にのぼってお元気でいてほしいなと感じておりましたので、今日の訃報が残念でなりません。


 今後落語がどのようになるかはわかりませんし、その中で私が驚くような魅力的な怪談噺ができる噺家が現れるかはわかりませんが、人を言葉の力で魅了し、楽しませる噺家の未来が明るいことを願っております。

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