第5話 初めてのデート3
エスカレーターでもう一度三階に行き、さっき行ったゲームショップよりも先に進んだあたりから騒々しいBGMやゲームの音がだんだんと聞こえてきた。そして、さらに進んでいくと目的地のゲームセンターが見えてくる。
「なんか、久しぶりだなぁ……」
雪村さんは懐かしむようにその光景を見ていたが、俺は友達とたまに来るので、また来たなという感じだ。
「前にも来たことあるの?」
「うんうん。ここは初めてだよ。でも、違うところなら小学生の時に行ったことあるんだ」
「そうなんだ。最近はないの?」
「えっと……中学の時に二、三回行った気がする。でも、学園に上がってからは一回もないよ」
「そうなの?」
「うん。誰も誘ってくれなかったから……」
「……」
なるほど。これは学園のアイドルというレッテルのせいだろう。学園にいる人は誰もが雪村さんのことをアイドルとしてしか見ていないからな。遊びに誘うなんて恐れ多いと思ってる人は多そうだし。なんというか、人気があるせいである意味ボッチになってしまったって感じだな。
俺はまた地雷を踏んでしまったようで雪村さんの顔は暗くなっていた。
はぁ……俺は何をやってるんだか。
「それじゃあ、今日は久しぶりなんだし楽しまなきゃね」
「……うん!」
とりあえず、これからを楽しもうという感じで俺は雪村さんに話しかけると、雪村さんは暗い顔から笑顔に変わった。
こうして、なんとかゲーセンめぐりを開始することができそうだ。
ここのゲームセンターには、あらゆるゲームがそろっている。リズムゲーム、シューティング、カードゲーム、格ゲー、メダルにプリクラといたものがある。もちろんエアホッケーやUFOキャッチャーなどもある。
今俺たちは、中をうろうろしていた。
さて、どれが雪村さん好みのゲームだろう。なんか、どれでも楽しんでくれそうだなぁ……まぁ、訊いてみればいいか。
「雪村さんは、何かやってみたいのある?」
「えっ! でも……今は雨宮君の番だよ?」
「雪村さんが選んでいいよ。俺ここに来たことあるし、大体やったことあるから」
「そうなの? でもなぁ……どれも面白そうで悩んじゃうし……あっ! あれやりたい」
そう言いながら、雪村さんが指をさしたのはエアホッケーだった。今はやりの大量のパックが出てくるヤツもあるけど、このエアホッケーは単純に一つのパックを打ち合うだけのヤツだ。
雪村さんは定番なのが好きなのかな?
「じゃ、これやろっか」
「うん!」
雪村さんは早くやりたそうな顔をしていた。
このエアホッケーは一回百円だそうだ。雪村さんが「私が払うよ」と言ってきたがここは俺が払うことにした。こういうものは男が払うべきだろう。
お金を入れた後、俺と雪村さんはそれぞれ分かれ、お互いにマレットをもって向かい合い、パックが来るのを待っている。
パックは雪村さんのほうに行った。
ゲーセンは久しぶりと言っていたが、さすがにエアホッケーのやり方は知っているみたいだ。パックを今にも打とうとしている。
「いくよ!」
さて、どれくらいの実力かな? お手並み拝見っと……って! うわっ!
そんな余裕をぶっこいていたら、かなり強くパックをはじいたらしく、かなりのスピードでやってきた。
想定外のことに俺は対応に遅れ、雪村さんが一ポイントを獲得した。
「まじかよ……」
「どう? 私も結構やるでしょ?」
「……いや、今のは俺が油断してただけだし……」
「それなら次はちゃんとやらないとね。次も手抜いたら痛い目見るかもよ?」
雪村さんの目は本気だ。彼女のスポーツ選手としての何かに火をつけたらしい。口調も若干変わっている。
まさか、雪村さんが勝負ごとに熱い人だとは思ってなかったぞ。これは、俺も本気でやらないとダメかもな。できれば勝ちたいし。
「分かったよ。これからは本気でやる」
「うんうん。ほら、次は雨宮君からだよ?」
「はいはい」
俺はそう言って、手元にパックを置いた。
そんな余裕でいられるのも今だけだ!
そして、俺はパックをまっすぐには打たず、壁にバウンドさせてからゴールの穴をねらった。そう来るとは思っていなかったらしく、俺は楽々と一ポイントを獲得できた。
「壁使うなんてずるいよ!」
「いやいや、俺も本気出すって決めたからこれくらいのことはするよ?」
「負けないんだから!」
「そうこなくっちゃ」
そうして、白熱の戦いはしばらく続いた。
しばらく打ち合ったが、互いに防御が固くてなかなか得点が入らない。
現時点で、三対三の同点だ。そして、試合時間が残り少なくなってきている。
「なかなかやるね、雪村さん」
「雨宮君こそ」
今パックを持っているのは雪村さんだ。ここで決められれば時間的に俺は負けるだろう。
「これで終わりだよっ」
そう言いながら、渾身の一発を雪村さんはまっすぐ打ち込んできた。スピード重視にしたのだろう。
俺はそれを止めようとか、防御して引き分けにしようとは思わなかった。
これは賭けだがそのまま打ち返すことにした。
当たれば勢いよくパックが飛んでいくだろう。空振ればそのまま負けにつながる。
俺は迫りくるパックを、最大限の力をもって最適なタイミングで打ち返す。
ここだ!
――カンッ。
俺は会心の一発を打てたようだ。プラスチックが反発する音が響き、かなりのスピードで雪村さんのほうに飛んで行った。
これでどうだ?
俺が見つめているパックを雪村さんは、打ち返そうとするが見事に空振った。
そして、そのままゴールの穴に吸い込まれていく。
そのすぐ後に、試合終了のBGMが鳴った。俺の勝利が確定した瞬間だ。
よし!
「勝ったぁ~~~」
俺の中で張りつめていたものが緩んだようで、かなり気の抜けた声が出ていた。
それも仕方ないだろう。かなりいい試合で、なんとか勝てたという感じだったし。
というか、お互い真剣にやりすぎて、遊びという雰囲気ではなかった気がする。まぁ、楽しかったから、別に構わないけどさ。
「……負けた」
一方で雪村さんは負けてとても悔しいそうだ。
「ねえ……もう一回やらない?」
雪村さんは再戦を申し込んできた。
もしかして、雪村さんってかなりの負けず嫌い? 意外な発見かもしれないな。いや、だからこそテニスが強いのかもしれないな。
だけどこれはもういいだろう。他にも楽しいゲームはたくさんあるし。
「これ以外にもまだたくさんあるから、他のにしない?」
「でも……負けっぱなしは嫌」
雪村さんは対戦にこだわりたいのかな? なら他の対戦ゲームを提案すればここを動いてくれるか。
「他にも対戦できるのあるからそれで勝負しよう?」
「…………分かったよ」
雪村さんは、しぶしぶだったが了承してくれた。
その後は、リズムゲームやレースゲームなどをやり、リズムゲームでは俺が、レースゲームでは雪村さんが勝利した。やはり雪村さんは、勝ったら嬉しそうに、負けたら悔しそうにしていた。
他にもUFOキャッチャーやシューティングなんかもやったが、そろそろいい時間だ。やれて後一つというところだろう。
「そろそろ時間もきたし、最後にやりたいのある?」
「えっ! もうそんな時間?」
「うん」
雪村さんはゲームに夢中だったようで時間経過を忘れていたらしい。確かに楽しい時間ほど早く過ぎるものだけど、それってつまりゲーセンを楽しんでくれたってことだよな? ……よかった。
「えっと、あのね……一つ一緒にやりたいなって思ってたのあるんだけど……いいかな?」
「いいけど、何やるの?」
何だろうか。エアホッケーでリベンジとかかな? まぁ、そうなったら最後だしいっか。
「あれなんだけど……」
「あぁ~~~」
それは四角い筐体の人が一人以上は入れるヤツで俗に言うプリクラだった。ごめんね雪村さん。またエアホッケーかなとか思って。
たしかに雪村さんは女子だし撮ってみたいという思いがあったのかもしれないな。
けれども、俺とでいいのかって思いはあるけど……雪村さんが撮りたいというならそれでいっか。俺があれこれ言うことでもない気がするし。
「ダメ、かな?」
「いいよ。一緒にやろっか。俺も前々から興味はあったし」
「うん! でも……どれがいいんだろ?」
たしかに、プリクラの台ってたくさんあるよなぁ。たぶん、台によって機能が違うんだろうが、知識がない俺にはどれがいいかなんて全く分からない。
「う~ん……ホント、どれがいいんだろうね」
「雨宮君もわからないか……」
ごめんね、役に立てなくて。
「雪村さんが、これって思ったヤツでいいんじゃない?」
「う~ん……じゃあ、これで」
「ちなみに理由は?」
「目の前にあったから」
「そんな理由!?」
「うん。それとも、違うのにする?」
「いや、これでいいよ」
どうせ知識のない俺たちが選んでも、どれも同じようなものだろうし別にこれでいいだろう。
そう思いながら俺は目の前のプリクラの台にとりあえずお金を入れた。
すると説明が入り、何人だとか背景を選べとか言われたがそういったものは全部雪村さんに任せた。俺にはそういったセンスがないからな。
操作しながら雪村さんは「なんか、中学の時の全然違うよ」と言いっていたが、無事に設定を終わらせたようで、俺たちは撮影するための準備を促された。意外とすぐに撮影は始まるらしい。
「えっと……どんなポーズで撮ればいいんだ?」
「う~ん……ピースとかじゃない?」
「なるほど」
雪村さんがそう言ったので俺はとりあえずピースをすることにした。彼女も同じくピースをしている。
カウントダウンの後にシャッター音が鳴った。
目の前の画面には笑顔の雪村さんと、無表情の俺が映っていた。
「雨宮君、顔全然笑ってないよ?」
「うっ……ごめん……」
女子と二人きりで写真とか緊張するんだから仕方ないだろ。
「次はもっと笑顔でね」
「……はい」
それから、三枚ほどなんとか笑顔を作って撮った。
はぁ……ようやく次がラストか……意外とプリクラって精神を使うものだな。いや、それは女子でしかも雪村さんとだからか……
そんなことを考えているとそれは起こった。
最後はもっとくっついて撮ろう、とプリクラの台がアナウンスしてきた。
これには、雪村さんも驚きと恥ずかしさが顔を埋めつくしていた。俺も同じような顔だろう。
なぜ最後にそんなことを要求してくるんだ?
俺たちは今まで一定の距離を開けて撮っていたんだ。それをいきなりくっつけとか無理な話だろう。
だが、最後は、くっつかないと撮ってくれないらしい。何回か離れた状態でポーズをとっても台に注意されるだけだった。
はぁ……諦めよう。
この台はどうしても俺たちをくっつけたいらしい。もしかして、これってカップル向けの台だったのかもしれない。
はぁ……考えなしに選んばなければよかったなぁ……まぁ、もうなるようになるだろう。
そう考えて俺は、雪村さんに訊いてみた。
「えっと……もっと近づいてもいい?」
「……うん」
「それじゃ……」
それからゆっくりと俺たちは近づいていく。だが、システム的にはまだ許容範囲ではないらしく、撮影のカウントダウンは始まらない。
俺たちの肩が触れ合ったところでようやくカウントダウンが始まった。
鼓動が聞こえてしまうのではというくらいに、心臓がうるさかった。
恥ずかしくて雪村さんのほうを見ることができない。たぶん俺の顔は真っ赤だろう。
どんな表情をしようかなんて考えることはできなかったので、とりあえずピースだけはしておいた。
そして、撮影が終わると同時にお互いに距離をとる。しかし、その距離はこの台に入った時よりは近い距離だった。
「お、終わったな」
「そ、そうだね」
落ち着け、落ち着くんだ俺。確かこの後は文字とか書けるはずだよな?
「と、とりあえず出よっか。確か文字とか書けるはずだし」
「う、うん。そうだね」
俺たちは何とかその場から動いて台から出た。
外に出てからはお互いに落ち着けていた。あの空間が俺たちをおかしくしていたのかもしれない。
「えっと……どんなこと書けばいいのかな?」
「そうだなぁ……こういう時は、初プリとか、今日の日付とかじゃない?」
「そうだね。久々のことで忘れてたよ」
ペンを持った雪村さんが画面に字を書いたり、唇の色を変えたりといろいろやっていく。もちろん、センスがないだろう俺は、このことに関しても全部雪村さんに任せている。
最初はぎこちなかったが、だんだんと慣れてきたのかそれとも楽しくなってきたのか、ペンを動かす手が軽やかだ。
そして、最後の写真ってところで時間切れとなり、撮った写真がプリクラの台から出てきた。
それを二人で分けた後に、なにやらスマホにも取り込めるらしく二人して取り込んでみた。
その後に、改めてプリクラを見てみると、うまい具合に加工してあった。だが、最後のやつだけは無加工で、二人して顔は真っ赤で、ぎこちなくピースをしているものだ。
それを見ると、いろいろと思い出してきて恥ずかしくなってくる。雪村さんも同じなのか顔は赤かった。
これは、誰にも見せられないな。何言われるかわからんし。そもそも、恥ずかしすぎる。
俺はとりあえず財布の中にそれを入れて、時間を確認してみた。すると、夕食にはちょうどいい時間だった。
「じゃ、じゃあ夕食に行くか。時間もいい時間だし」
「う、うんそうだね。どこに行こうか」
「えっと……パスタとか大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「そっか。それなら、一応おいしい店知ってるけど……どうする?」
「行ってみたい!」
なんとか普通な感じに戻れた俺たちは、ゲームセンターを出て一階に向かった。
俺たちが向かった店はパスタ専門店だ。テレビで特集を組まれるくらいには有名である。外装も内装もおしゃれで、デートの最後にはもってこいだろう。
夕食時だったが、何とか順番を待たずに入店することができた。
「ここって、おすすめとかあるの?」
「カルボナーラだよ」
「そうなの?」
「うん。テレビでやってたからね」
「じゃあ、私それにする。雨宮君は?」
「俺ももちろん同じのにするよ。一回はここの食べてみたかったからね」
そうして俺たちは同じものを頼んだ。ここは注文から提供までの時間が早いことでも有名であるが、さすがにまだ来ないだろう。
少し世間話でもするか。
「そういえば、春休みは部活ないの?」
「あるよ。ただ今日は休みをもらったの。明日からは部活に行くつもりだよ」
そうだよなぁ……春休みだからって運動部が休むわけがないよな。
「ねえ、雨宮君はやっぱりテニスはもうやらないの?」
「う~ん……たぶん部活としてはやらないんじゃないかな」
「遊びとしてはやるってこと?」
「まぁ……誘われたら考えるかな?」
「ならさ……今度時間あるときに一緒にやらない?」
「雪村さんと!? いやいや、俺テニスやめて二年くらいたってるし、もうまともに打ないだろうから無理だよ」
「それでもいいよ。今度一緒にやろ?」
「……考えておくよ」
「うん。お願い」
俺は中学の時に硬式テニス部に入っていたが、公式戦には出たことがない。それは俺が不祥事をしたとかじゃなくて、単に周りの連中のほうが強くて出場枠を手に入れることが出来なかったからだ。まぁ、中学から始めたから仕方ないけど。
そういった実績を無視しても俺はもうテニスを随分とやってない。そんな俺が雪村さんとまともに打ち合えるわけがないだろう。
あまり、自分の醜態をさらしたくはないんだけどなぁ……
でも、雪村さんのあの嬉しそうな顔をされたら、断れずに言葉を濁すので精いっぱいだった。
他に違う話をしようとしたところで、待っていたカルボナーラが来た。やっぱり出てくるのが早いな。
「いただきます」
「いただきます」
俺たちは同時に食べ始めた。
「すごくおいしいね、これ」
「たしかに、めちゃくちゃうまい」
食事中はほとんど会話はなかったが、別に不快な時間ではなかった。
それから食べ終えた俺たちは、今は小休止といったところだ。
そんな時に父さんからメールが届いた。
えっと……なるほど。
とりあえず父さんに返信しておいた。余計なおせっかいとかも書かれてたのでそれへの返信も忘れなかった。
「えっと……雪村さん、帰りは家まで送るよ」
「えっ……いいの?」
「もちろん」
「あっ、でも……お母さんまだ帰ってないかも……」
「それは大丈夫。もう家に帰ってるって、父さんからのメールにそう書いてあった」
「そうなんだ。じゃあ、お願いします」
「うん。任せて」
こうして俺たちのショッピングモールでの初デートは終わった。
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