熱帯夜の事件 その二

 カッキーがまた変なことを言い始めた。

「い、いいから帰ろう、もうこんな時間だしさ」

 中根はやたら焦って早く帰ろうとする。

「都市伝説? そんな中の学校にあったか?」

「まあな、数年前に忘れ物を取りに戻った生徒がいるらしいんだ」

 カッキーはゆっくりと語り始めた。


 数年前のその生徒の話。その生徒が忘れ物をした教室の真下にはその昔から「地獄へ繋がる道がある」と語り継がれていた。

 そしてその生徒は翌日、帰ってこなかったという。

 噂によるとその地獄への道と言うのは一階の計算事務室、そして今居るのは……


 背中に寒気が走る。さっきまでの蒸し暑さが嘘のようだ。


「中根、もしかしてお前それで俺たちを呼んだのか?」


「だ、だって! 元々カッキーと二人で取りに行く予定だったんだけど、突然変なこと言いだして……」


 カッキーの方を睨みつける。相変わらず糞憎たらしい顔をしてこっちを見てやがった。


「おう垣本さんや、ここから抜け出したら話がある」


「わりぃって」


 カッキーは平謝りしているが顔に反省の色は微塵も無かった。

 いずれにせよ、ここからまずは出なければいけない。職員玄関に向かい手を掛けた。


「おいベンベ、早く開けろよ」


「へへっ……」


 もう笑うしかなかった、どうやら俺の反応を見て皆んな察したようだった。そして、どうにかならないものかと、ガラスの向こう側を見ているとまた変なものが見えてしまった。

 暗く良く分からないが、白い着物を着たようなのが見える。


「そういえば都市伝説で……」


 カッキーがまた余計なことを言おうとした時。


「うわぁぁぁあ!」


 パニクった中根が全力で走りだした、それをカッキーが全力で追いかける。


「シュワちゃん! 行くぞ!」


「え、うん!」


 しかし予想以上に中根は足が速く、二人とも置いてけぼりを食らってしまった。この真っ暗な校舎の中で。

 先ほどの着物野郎に続きまた嫌な音が聞こえた。どうやら教室の方からだ。


 シュワちゃんと顔を見合わせ、再び前を向く。整備用のペンライトをポケットから出して前へと向ける。暗闇の中に二つの明かりだけが頼りだ。


 暑いが故の汗なのか、それとも冷や汗なのか、もう分からないが作業着の中は二人とも汗でビショビショだ。立ち止まり作業ツナギの上を脱ぎ、袖を腰に縛る。


 そして、音の聞こえた教室。一の二の教室だった。戸を開けようとした時、先に奥から開けられた。そして何か影が飛び出してきて、腹部に柔らかい物がぶち当たり、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。

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