第74話 ハル、下宿する
日曜日の早朝、ユウはミニバンを運転してリンとハルを迎えに行った。リンは珍しくタイトスカートのスーツ姿だった。薄くだがメイクもしている。そして関越自動車道から上信越自動車道と進む。
ハルの両親は、難しい顔をしていた。畳の部屋に正座してリンは深々と頭を下げる。
「娘のことでわざわざ小諸まで来ていただいて、申し訳ありません。」
「今日は、ハルさんのことでお願いがあって参りました。」
「寮のことは、春の責任ではないことはわかっています。しかし入学してまだ半年も経っていません。当初の約束が守れないなら、小諸に帰って来てほしいというのが私どもの考えです。」
「ハルさんが、うちの大学に入るのにどれだけ努力したか、ご存じだと思います。それを全てムダにしてしまうのですか?」
「古臭いと思われるかも知れませんが、大事な一人娘です。いずれは柏木の家を継いでもらえると思って、ここまで育てて来ました。娘を手放したくないですし、勝手気ままに生きられると思って欲しくないんです。」
少し間が空いた。
「寮と同じような環境にあれば良いのですよね? それでは、ハルさんを私の家で預からせてもらえませんか?」
「「えええー!!」」
ユウとハルがびっくりして叫んだ。ハルの両親も驚いた顔をしている。
「どうして、そこまで?」
「ハルさんは私たちのサークルの大事な部員です。失う訳にはいきません。」
ハルの両親は、もう自分たちの負けを悟ったようだった。
「どうか、どうか娘をよろしくお願いします。」
昼食を、というハルの両親の誘いを断って、ユウたちは帰ることにした。ハルの引っ越しの準備をしないとならない。
高速道路に乗って、最初のサービスエリアで停めてくれとリンは言った。紙袋を持ってトイレに行く。リンは、自宅でのヨレヨレのTシャツとスウェットパンツとサンダル姿で戻って来た。メイクも落としている。
「あ〜、さっぱりした。」
「でも、本当にいいんですか?」
ハルがおずおずと尋ねる。
「まあ、座敷童子を置いているとでも思う事にするわ。」
「私はあんたがうらやましい。」
リンがぽつりと言った。
ユウには、両親のいないリンの気持ちが痛い程、分かったのだった。
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