第41話 リン、発熱する

秋が大分深まって、朝晩はかなり冷え込むようになった、ある日。


リンが目覚めてスマホを見ると、すでに朝の10時を過ぎていた。ユウからもメールが来ている。やばい、寝坊したと思って起きようとしたが、体が動かない。どうも熱があるらしい。


どうしようかと思ったが、だんだん意識が朦朧としてくる。まずいと思ってメールを送った。


「たすけて」


メールを送った後、強烈な眠気が襲って来た。その時、スマホが鳴った。ユウから

である。


「どうしたんですか?」


「熱が、、、体が動かない。」


「すぐ行きます。玄関の鍵を開けておいてください。」


リンはなんとかベッドから転がり落ちるようにして、降りた。立つことができないので、階段を座りながら1段ずつ降りて行く。這うように玄関にたどり着いて、かんぬきを外し、鍵を開けたところで、力尽きて意識を失った。


ユウはスチームローラーで急いでリンの家に向かっていた。リンの家の玄関を開けると、リンが倒れている。頬を叩いて声をかけても返事がない。すごく体が熱い。2階のベッドまで運ぼうとしたが、筋肉質のリンは意外と重くて担ぐことができなかった。仕方なくリビングのソファまで引きずっていって寝かせ、2階の寝室から毛布を持ってきてかけた。


ユウは、これからどうすべきか考えた。まず病院に連れて行きたい。保険証はたしか身分証がわりに財布に入っていたはずだ。タクシーか一旦家に帰ってワゴンRで戻るか?リンを1人で運ぶのも難しいので、人手もほしい。ユウは母の携帯に連絡した。


「リンが急病なの。お願い、手伝って!」


ユウは一旦家に帰って、ワゴンRに母を乗せて戻ってきた。母はリンの様子を見てインフルエンザの可能性がある、マスクをしなさいと言う。2人がかりで、ワゴンRの後部座席にリンを寝かせて毛布をかけ、市立病院に向かった。


検査の結果、やはりリンはインフルエンザだった。薬の処方箋と診断書をもらって家に帰る。なんとかリンを2階の寝室まで担ぎ上げた。母が冷蔵庫の中を確認して、大してモノが入ってないのを見て、ユウが駅前のスーパーまで買い物に行った。


ひと通り準備ができたので、母を自宅に送って、ユウは泊まることにした。軽く夕食を済ませて、ベッドで寝ているリンの脇で、様子を見ながら文庫本を読む。リンはうなされていた。悪い夢を見ているのだろうか?


「ユウ、ユウ、、」袖を引かれて目が覚めた。うたた寝してしまっていたらしい。

「お腹すいた。」

「何がいいですか?」

「何か甘くて冷たいもの。喉がいたい。」


ユウは1階に降りて、冷やしておいた桃の缶詰を開けて一口サイズに小さく切った。缶詰のシロップとブルガリアヨーグルトを混ぜて、ヨーグルトソースにする。


「食べさせて。」


ユウはリンの上体を起こして、


「はい、あーん。」


スプーンで一口ずつ運んでやる。リンは1缶食べきった。薬を飲ませる。


寝巻にしているTシャツとスウェットパンツが汗ばんでいたので、脱がせて全身をタオルで拭いた。パンツも脱がせて、きれいなものに代える。Tシャツではなく、持ってきたユウのパジャマに着替えさせた。



「手を握って。」ユウはそっと握ってやる。

「ありがと。」リンはすぐに眠りについた。


夜も更けてきたので、メールを送ってからユウはシャワーを浴びて、リンのベッドのとなりに布団を敷いて寝た。

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