第37話 リン、放置する

その日、ユウは母に頼まれた雑誌を買いに駅前の本屋に行った。


自分が読みたい本を探したり、立ち読みしたりして1時間程してから店を出て、街灯にチェーンロックで固定しているスチームローラーのところに戻ると、スチームローラーのハンドルに、赤い札が付いている。


何かと思って見ると、札に『自転車を放置しないでください。撤去します。○○市役所』と書いてある。ユウは慌ててチェーンロックを外して、逃げるように帰った。


家に帰って、市役所のホームページを見てみる。それによると、駅前等は自転車等の放置禁止区域であり、自転車を置いて置くと札で警告された後、1時間位で撤去される。チェーンロックなどでガードレール等に固定されている自転車は、チェーンロックを切断して撤去するとある。撤去された自転車は、駅から遠く離れた保管所に運ばれるので、そこまで取りに行かねばならない。そして、撤去手数料を2000円取られる。


ユウは今日はラッキーだった。今後は気を付けねば、と思った。


次の日、リンと会っている時にその話をした。リンは苦虫を噛み潰したような顔をして、


「知ってる。」とだけ言った。ぼそぼそと話し始める。


リンがスチームローラーを買ったばかりの頃、駅前にスチームローラーを停めて買い物をしていた。色々見ているうちにけっこう時間がたってしまい、戻ったらスチームローラーがなくなっていた。


最初は場所を間違えたのか? と思って周りを探したが、見つからない。盗まれたんだ、買ったばかりなのに、と思って、半べそをかきながら駅前の交番に行った。交番のおまわりさんは優しくリンの話を聞いていたが、それは市役所の放置自転車の撤去じゃないですか? と言った。


親切なおまわりさんは保管所に電話してくれて、よく似た自転車があるらしいから見ておいで、と言った。保管所に向かうバスの中で、リンはスチームローラーがありますようにと祈っていた。


保管所には、何百台もの自転車が撤去されて置いてあった。屋根などないから、雨晒しである。係員に頼んで、今日撤去した自転車のところに案内してもらった。リンのスチームローラーはすぐ見つかった。



「あったあ〜、よかったよ〜〜〜。」 リンは思わず叫んだ。



撤去手数料を払って引き取る。切断されたチェーンロックも一緒に返還された。リンは駅前の交番に寄って、親切なおまわりさんに礼を言って帰ったのだった。


撤去手数料とチェーンロックの買い直しで、余計な出費があったのは痛かったが、

以降、リンはスチームローラーを停める時は、目に見えるところに置くか、駐輪場があれば、そこにきちんと置くようになった。


話を聞いていて、ユウの脳裏にその時の情景が浮かぶ。


リンが半べそ、リンが、、、




「ぷぷっ」 つい笑ってしまった。


「も〜ユウってば、ひどーい。」リンがふくれっ面をする。


こうして、秋の日は暮れて行くのであった。

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