第31話 ユウ、免許が取れた
大学の夏休みが終わる直前、
ユウは教習所の卒業検定を一度で合格し、運転免許試験場の学科試験も受かって無事免許を取得した。
しかし、ユウの家の車は父の趣味でマニュアル車なので、AT限定免許のユウには運転できなかった。それで、中古の軽自動車を買おうということになり、ユウの父は、どんな車がいいか? ユウとユウの母に聞いたが、
「自転車を2台積める車」とユウは答え、
「きれいで乗り心地が良くて、安い車」とユウの母は答えた。
なかなか厳しい条件を突き付けられたユウの父だったが、車好きなこともあって車探しを楽しんでいたらしい。
それで、ユウの父は中古のスズキワゴンRを見つけて来た。安いので10年落ちだが走行距離が少なくきれいな車両である。ユウの母はすぐ合格点を出し、ユウは後部座席を倒して自転車の車輪を外せば、2台積めることを確認して、合格とした。
そんな訳で、ユウの家にやって来たワゴンRだったが、とりあえず、ユウは近所をぐるぐる回ってみた。30分くらい走ってから、ガソリンスタンドで給油して、家に戻って車庫に入れてみる。何度も切り返しながらだが、なんとか車庫に入れられた。
次に、母を乗せてスーパーに買い物に行く。母はヒヤヒヤしていたらしいが、意外にユウは落ち着いて運転していた。大きな物や重い物も買って載せることができるし、暑い中歩かずに済む。ユウの母は、上機嫌であった。
2週間くらい経って、そろそろ大丈夫だろうとリンを誘って、カーサイクリングに行くことにした。朝いつもより早めにリンの家に向かって、スチームローラーを積む。リンが助手席に座ってシートベルトをしながら、いつになく真面目な顔で言った。
「私、ユウと一緒に死ねるなら、本望よ。」
「縁起でもないこと、言わないでください。」
「ところで、今日はどこ行くの〜。」
「ヒ・ミ・ツです。」
ユウの運転する車は、
公園の駐車場に車を停めて、スチームローラーを下ろして組み立てる。2人はサイクリングロードを上流に向かって走り始めた。バイクのコースやテニスコート、野球のグラウンドの脇を走る。国道16号線を越え、
この牧場では自家製の牛乳を使用したアイスクリームを売っている。ユウはバニラとチョコのダブル、リンはさらにストロベリーを追加したトリプルを食べる。観光用の牛や豚がいて、近くで見ることができて、楽しめた。
休憩後、この後は下流に向かって来た道を戻り始める。国道16号線を越えたところで、脇にそれて進むと古民家があった。その古民家はカフェになっていて、備え付けのバイクスタンドには、ロードバイクが何台も下がっている。人気があって混んでいるのを想定して、お昼どきを外したので入ることができた。自家製ケーキも人気らしいが、すでにアイスを食べていたので、ホットドッグを食べる。周りのお客さんは、みな派手なサイクルウェアを着ていた。昼どきになって混んできたので、店を出て駐車場に戻る。
帰りもユウの運転で何事もなく、リンの家に戻って来た。お茶の仕度をしながら、リンがユウに話しかけるが返事がない。ソファに座ったユウは眠っていた。今日のプランニングも行き帰りの車の運転もユウが全部していた。今年の夏は、アルバイトに自動車教習所とさぞかし疲れただろう。
リンはユウが起きないように、そっとタオルケットをかけるのであった。
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