第18話 ユウ、説得される
ある日、リンがユウに尋ねた。
「ユウちゃん、ドロップハンドルはブレーキかけづらくない?」
ドロップハンドルのブレーキレバーは、手が小さくて握力が弱い女性には握りにくい。特にブレーキレバーのブラケットという部分に手を置いて、上からブレーキレバーを握る方法だと、ますます握りづらい。
ユウも手が大きくはないし、握力も強くない。下り坂でスピードが出た時に充分減速できずに怖い思いをしたことがあるし、横から自転車が飛び出して来た時にとっさにブレーキをかけたものの、危うくぶつかりそうになったこともある。
それをリンに言わなかったのは、言えばリンのことだから、またユウのために色々してくれるだろうと思って、遠慮しているのであった。
ユウが口ごもっていると、そんな気持ちに気付いてか、リンは
「ユウちゃんが怪我したりしたらイヤだから、フラットハンドルに替えようよ。でも、ハンドルとブレーキレバーは持ってるけど、グリップとブレーキワイヤーはないから、ユウちゃんに用意してもらわないといけないけど。」
と言った。リンのまる抱えだと、ユウも遠慮してしまうが、自分にも負担があるのなら受け入れやすい。リンの思いやりに感謝しつつ、ユウは礼を言ってお願いすることにした。
グリップとブレーキワイヤーはネット通販で購入する。グリップはリンと同じもので、外側が平らに広がっていて手のひらを乗せることができるエルゴン。ブレーキワイヤーはブレーキレバーと接続するタイコという金具が、ドロップハンドルのブレーキレバー用とは形が違うため購入した。
そろそろ、大学の木陰のベンチも暑い日があって、作業はリンの家で行うことにした。授業が終わって、2台でリンの家に向かう。
リビングの壁沿いに敷いてあるマットを部屋の真ん中に動かして、ユウのスチームローラーを作業用のスタンドに置く。
ユウは、作業の前に、リビングの仏壇の扉が開いているのに気付いた。仏壇の中には写真立てが置いてある。写真には、たぶん高校の制服を着たリンを真ん中に両脇に両親らしき二人が写っている。入学式の時だろうか?
ユウは見てはいけないものを見てしまったような気がした。
リンは、ハンドルとブレーキレバーを持ってきた。グリップとブレーキワイヤーと一緒にマットの隅に置く。
この前、来た時にはなかったグリーンの、金属製で七段の引出しとキャスターがついているツールキャビネットから、いくつかの工具とオイルなどのケミカル用品を取り出して、リンは言った。
「自分でやってみる?」
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