第17話 ユウとリン、参拝する

ゴールデンウィーク最後の日曜日は、ユウとリンのポタリングの日である。


いつもの栗原くりはらのコンビニから西大泉にしおおいずみに向かう道を進むと、T字路に出る。そこを右折すると、大きな道路となり、広い歩道部分には、自転車の通行帯もある。


その道は東伏見稲荷ひがしふしみいなり神社の脇を通り、多摩たま川を越えて、ずっと南に続いていて、町田まちだの方まで通じていた。


広い道だけに単調ではあるが、安全で走りやすい。二人はその道をのんびりと走り、一時間足らずで目的地に着いた。調布ちょうふの手前にある深大寺じんだいじである。


奈良時代に創建されたという、この寺に来るのは、ユウもリンも初めてである。


先日、リンがテレビの番組で知り、調べてみたらポタリングにはちょっと距離があるが、充分圏内であることが分かり、ユウに相談したところ行ってみようということになった。


ポタリングの目的地は、大体リンが事前に決めている。今まではユウの体力や迷子になった時のことも考えて、リンが事前に行ったことのある近場が多かったのだが、ユウがスチームローラーに慣れるにつれて、もう少し遠場に足を伸ばして長い時間を一緒に過ごしたいという気持ちに、お互いがなってきたのであった。


シングルスピード女子のポタリングの目的地が、お寺とはちょっと渋いかな、とはリンは思ったが、ユウは楽しみにしていたらしい。


果たして、ユウとリンは、深大寺を気に入った。緑が濃く、水が湧いていて、お寺の中なのに深い自然の中にいるような気がする。ゴールデンウィークだから人が多いが、普段の週末の午前中の早目の時間なら、きっともっと良い雰囲気であろう。


二人は参拝を済ませて、参道の茶店で甘味を食べた。


その後、少し調布に向かって進むと、野川のがわに出る。川沿いに遊歩道が整備されていて、上流に向かって行くと、野川公園という広い公園に出た。


ベンチに並んで腰かけ、ユウはカバンからランチボックスと水筒を出す。ランチボックスには、ユウの母お手製のサンドウイッチが詰められている。水筒には、アイスティーが入っている。リンは、りんごとオレンジを持って来ていた。


リンは、サンドウイッチにかぶりつく。幸せそうに、サンドウイッチを飲み込みながら、


「ユウちゃんのお母さん、本当に料理が上手よね。」と言った。


実は、サンドウイッチには、ユウが作ったものもあったが、ユウは黙っていた。ユウから見ると、母が作ったものより見映えが悪く、美味しくなさそうに思えてしまうが、リンは美味しそうに食べている。ユウは、ほっとした。


サンドウイッチがなくなると、リンがナイフでりんごの皮をむいて、切ってくれたのと、オレンジを切って、デザートとして食べた。


アイスティーを飲みながら、おしゃべりをする。いつものたわいないおしゃべりも、場所が違うと新鮮な感じがする。


公園を出て、二人は帰路に着く。集合場所の栗原のコンビニでリンと別れ、午後4時くらいにユウは、自宅に着いた。


いつものポタリングより、距離が長く、時間もかかって疲れたような気がする。


でも、それ以上に何倍も楽しかった。ユウは猫を膝に乗せて、お茶を飲みながら1日を楽しく振り返ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る