第5話
少しだけひんやりとした教室に足を踏み入れる。
放課後の静まったその教室で日向咲は資料を整理しながら僕のことを待っていた。
隣にはスーツを身にまとった一見いい親の顔をした叔父さんがいる。
「お待ちしておりました、どうぞお座りください」
「、、はい」
叔父さんが座ったのを確認してから僕も座る。
先に座った日には帰ったら何をされるかわかったもんじゃない。
居心地の悪いそこで話し合いは淡々と続いていく。
学校での様子だとか行事の報告だとか、どうせ叔父さんは興味もないのであろう話が続いていく。
「晴さんは何を目指しているんですか?」
不意にそんな風に日向咲にといかけられて思考が止まる。
僕は、何を目指しているのだろうか。
僕は、何になりたいのだろうか。
そもそも、、、大人というものになりたいのだろうか。
不意に脳内に昨日の修哉たちの姿がフラッシュバックする。
もしここで僕が日向咲の望まぬ未来を描いたら間違いなく彼は
また昨日のように彼らを消しにかかるだろう。
今度こそ本当に彼らは、兄は、親友は殺されるかもしれない。
それでも。
今ここで日向咲のいいなりになるのは嫌だった。
「こいつに夢なんてないですよ、なりたいものなんてあるわけないでしょう
親が死んで散々たくさんに迷惑をかけたのにまだ迷惑かけようなんて
この子が思うわけないでしょう
そうだろう?晴」
不意に隣から叔父さんに声をかけられる。
日向咲のような遠回しな夢の否定の方がまだよかった。
直球に投げかけられたお前には夢を見る資格はないという現実。
『母親を亡くし父親を自殺で亡くし借金まみれで生きているお前らを助けてやったのは誰だとおもってるんだ、』繰り返し言われてきたそのセリフが脳内に木霊する。
「いえ、、特に目指してるものはありません。
親孝行をすることだけが僕の役目ですから」
二人が満足げに笑ったのが見える。
「それでは引き続き息子をよろしくお願いしますね日向咲先生」
「はい、いい子に育て上げますのでご安心ください」
冷たい何かが背中を這いずり回り体の中に入り込んだ気がした。
心に穴が空いていく。
「先に帰ってるから遅くなるなよ」
そういって先に帰った叔父さんの後ろ姿を見つめた後
静かな廊下で崩れ落ちる体で壁に寄りかかる。
子供の夢を応援して、支えて、歩み寄って、一緒に考えて、送り出して、
、、、大人は頼れるものなんだって、頼っていいものなんだって、
仲間はいいものなんだって、それを教えるのが、学校。
教育機関。
そうなんじゃなかったの、?
「なんで」
「夢を描きたいよ」
「苦しいよ」
「正義ってなんなんだよ」
「どうして大人の言うとおりにしていたら不幸になるの」
一言呟くたびに心の中に傷が増えていく。
吐き気が増していく。
嗚咽が溢れる。
誰もいない廊下で一人静かに泣き崩れた。
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