王国を追放された元勇者は元最弱魔王の美少女暗黒騎士とのんびり冒険者生活を送る
「勇者様!」
魔王が消えて封印が解けたリリスは、すぐに俺の元に走り寄って来た。
「お怪我はありませんか?」
自然と自分の顔が綻んでいるのを感じる。
思えば、出会った時からずっとこいつは一生懸命だったな……。
リリスは今も真剣に俺の身を案じてくれている。
「何言ってんだ、お前の方こそ怪我とかはないのか?」
「私は……何ともないです」
「そうか。ならいい」
頭を撫でてやると、リリスは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「あ、えっと……その……急にいなくなってしまって、ごめんなさい」
「本当にな……皆で必死になって探したんだぞ」
「…………」
「…………」
言葉が無くなると俺たちは互いに見つめ合い……そして。
互いに惹かれ合うように。
まるで約束された事のように。
あの夜とは違う気持ちで唇を重ねた。
そうさせた気持ちがリリスのあの怪しい何かによるものなのか、もう俺にはわからない。
全てを忘れて、夢中で互いを求め合った。
と、その時だった。
勢いよく部屋の扉が開かれると同時に叫び声が飛び込んで来る。
「こらーっ!何を……!?本当に何をしておるのじゃ!?お主らは!!」
「わんわん!」
「ひゃっ!!」
扉の向こうにいたのはエリーと暗黒邪竜だ。
リリスは恥ずかしかったのか、飛びのくようにして俺から離れた。
「おいエリー、敵はどうしたんだ?」
「戦ってたらやばくなって来たからの、敵に『やばいからそろそろやめんか?』って提案してみたのじゃ。そしたら『いいよ』って言ってくれての。今はラーメンの試食会を開いておったところじゃ」
「今更だけど魔族めっちゃ親切だな」
こうして合流した俺たちは、七階で奮戦していたサラを救出。
その足でマリアのところへと向かう。
しかし時既に遅し、マリアは捕まり縄で縛られたまま無理やりラーメンを食べさせられていた。
心配して見ていると「これはこれで悪くないわね……何かに目覚めそうだわ」とか恍惚といった感じの表情で言い出したので、放置して残りの全員で帰還。
ちなみに、マリアは後日いつの間にか屋敷に帰って来ている。
とにかくこうして俺たちはいつもの日常を取り戻すことが出来た。
リリスが自分にとってどんな存在なのか。
それを今回の件で思い知らされた俺は、思い切って彼女にプロポーズをした。
リリスは最初信じられないとでも言う様な顔をしていたものの、すぐに俺の言葉を受け止めてくれた。
泣きながら笑ってくれたその顔は、あの夜の泣き笑いとは似ても似つかない。
見た目だけじゃない……そこに込められた意味もまるで違う。
残りの人生をかけてこの女の子を幸せにして見せると、その笑顔を見つめながら心に誓った。
そして俺たちは結婚式を挙げたのだが。
「さあ結婚式もいよいよ大詰めとなって参りましたぁ!今から正に誓いのチュイッスが行われようかというところです!実況、解説はこの私ボイスマンだぁ!よろしくぅ!」
式にドワーフ共和国の名物実況、ボイスマンが招待されていた。
俺たちの式のはずなのになぜ何も知らされていないのか。
横にいる神父に聞いてみた。
「おい、誰だよあいつを呼んだの」
「そんなの私が知るわけなかろう。それよりさっさとムチューっとやってしまわんかこの幸せ者が!!!!」
「もうちょっと他に言い方ないのかよ」
「ちなみにボイスマンを呼んだのはわらわじゃ!」
「エリー……何てことしてくれたんだ」
そのやり取りを聞いて、目の前にいたウェディングドレス姿のリリスがくすくすと笑った。
それはいつもの無邪気であどけない笑顔とはまた違った雰囲気で、俺は少しだけ鼓動が跳ねるのを感じる。
「でもこんな式の方が私たちらしいですよ、勇者様」
「ああ……でもお前、夫婦なんだからもうその呼び方はやめろよ」
「勇者様は勇者様ですから」
「そうかい」
そう言いながら俺はリリスの肩に手をかけ、
「あーーーーっと!今!?今何とぉ!?ゴーーーールゴルゴルゴルゴオオオオオオルぅ!!誓いのチュイッスという神公認の破廉恥行為が今!正に神のっ!神の元でぶほあっ!!!!」
ボイスマンがボコボコにされるのを聞きながら誓いのモンテビデオをかわした。
いやほら、何だか恥ずかしいだろ……キ……って言うのってさ。
それからしばらくたち、新婚生活にも慣れて来た頃。
結婚はしたものの、俺たちの生活が極端に変わることはなかった。
マリア、サラ、エリーそして暗黒邪竜との騒がしくも楽しい日々を送っている。
……いや、一つだけ変わったことがあったな。
「今日は帰らないってどういうことですか!?勇者様!!」
結婚したということでリリスが簡単には外泊を許さなくなった。
いや、この場合完全にリリスが正しいのであって、俺が最低なのはわかりきっている。
しかし理屈ではない。
たまには愛人であるエルザとも遊びたいのが男心というもの。
いや本当にごめんなさい。
「いやー、どうしても冒険者仲間のおっさんが金を掘りに行くって聞かなくてな」「何ですかその言い訳!どうせまたエルザさんのところに行くんでしょう!?今晩も私と過ごすはずだったじゃないですか!」
「いや本当だって。何ならおっさんに確認してくれよ」
「む~……」
明らかに納得のいっていない表情のリリスは、俺の首に両腕を回してしっかりと目を合わせて来た。
あっ……やばい、こいつ本気だ。
そう、俺はあの事件の後にこの力について教えてもらった。
「リリス、ちょっと待っ……!」
「だめですよ勇者様……今晩は私と一緒に過ごしましょうね♪」
サキュバスの力を発動するリリス。
その「魅了」は非常に強力で、ずっと見つめられ続けると俺ですら完全に抗うのは難しい。
すぐに解けはするもののかけられっぱなしだから脱出出来ないのだ。
徐々に俺の頭の中は、目の前にいる女の子の顔で埋め尽くされていった。
「うっ……ううっ……だめだ~!!リリス、好きだ~!!」
「はい、私も大好きです!勇者様♪」
こうして俺は半ばリリスの尻に敷かれる形になりながらも、楽しく幸せに暮らしたのでした。
めでたしめでたし
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