勇者と暗黒騎士、ジミーダ村でクエストを受ける
王都を出た後、俺たちはジミーダ村に向かって歩いていた。
「ふと思ったんだけどさ、味噌ラーメン醤油味はお前の兄貴だったんだろ?あいつを倒した俺を恨んでないのか?」
「え……そんなこと……悪いことをしたのは兄ですし……それに最後、消える時にテレパシーで『ちょっと地獄行って来るわ~』って笑いながら言ってましたので……悲しくもないですし……」
公園に行くような感覚で地獄に行くなよ……。
「あの、勇者様こそ、どうして私なんかを仲間にしてくださったのですか……?」
「どうしてって、そりゃかわいいからだろ」
「か、かわいい……そうですか……」
恥ずかしそうに俯き、照れるリリス。
「あ、あの……ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」
…………チョロすぎる…………。
えっ、この子大丈夫なの?ていうか別に好きって言ったわけじゃないのに何か怖いんだけど。
そんな会話をしていた時だった。
「キシャー!!」
草木の影から突然モンスターが現れる。
俺は腰に下げていた安物の剣の柄を握った。
「ジャイアントアントか……すぐに片付く、リリスは下がってろ」
ここでまた一つリリスにかっこいいところを見せておきたいからな。
「いえ、勇者様の手を煩わせることはありません!ここは私が!」
「えっ、おい」
俺が止める間もなく前に出たリリスは、モンスターに手のひらを向けて叫んだ。
「『ブラックランス』!」
リリスの手の前に槍の形をした黒い塊が出現すると、それはたちまちモンスターに向かって飛んで行き、突き刺さった。
「キシャアアア……」
ジャイアントアントはその場で悲鳴をあげながら倒れると、その身体を灰にして風に溶けていく。
何だったんだ今の……。
「おいリリス、お前ってもしかしてかなり強いんじゃ……?」
「ええっ……そんなこと……勇者様に比べれば、全然……」
最弱でバイトだったとはいえ一応は元魔王ってことか……。
それからもぼちぼちモンスターに遭遇しながら歩き、日が暮れてくるといい感じの場所で野営をすることになった。
正直、俺はあんなことやこんなことをしようと、下心からリリスを仲間にしたわけだけど、今日一日一緒に過ごしてみて思ったことがある。
これあかんわ……汚したらあかんやつやわこれ……。
純粋で一生懸命で、放っておくと変な男に騙されそう。
しばらくは俺が守ってやらないと……何て思ってしまった。
そんなわけで俺は横で眠るリリスの寝顔を眺めつつ、早めに別のハーレム要員をゲットしようと誓う。
次の日、俺たちはジミーダ村に到着した。
まずは王様に用意してもらった家を見に行くことにする。
「わあ、ちゃんとした家ですね。ここで私とゆ、勇者様のし、新婚生活がスタートするん、ですね……」
リリスは自分で言っておきながら耳まで赤くなっている。
お、重い……いつの間にか色々飛び越えて夫婦になってるし、一体どういうことなんだ……。これは早めに誤解を解いておかなければ。
「リリス、あのな……俺はたしかにお前のことをかわいいとは言ったがそれだけでな、俺はまだ結婚したりとかそういう気はないんだ」
「そっ、そうですよね……私もちょっと心の準備が出来ていなかったので、良かったです……」
誤解は解けたんだろうか。
心の準備が完了したらどうなるかはあまり考えたくないので、とりあえず置いておこう。
荷物やらを部屋に置いて落ち着いた俺たちは今後について話し合った結果、まだ生活に余裕のある今の内から金を稼いでおくことにした。
さすがに何もしないで長い間暮らしていけるほどあるわけじゃないからな。
俺たちが金を稼ぐなら冒険者稼業をやるのが手っ取り早いだろうということで、ひとまず冒険者組合に行ってみることにした。
冒険者組合に入ると、葉巻の煙や木の湿った匂いが鼻を刺す。
田舎町だからではなく、冒険者組合というのはどこでもこんなものだ。
「何だか怖いところですね……」
怯える元魔王。
「これからは冒険者として食っていくんだ。俺は昔やってたから何ともないけど、リリスは早く慣れないとな」
ちなみにリリスは元魔王として顔が知れ渡ってはいるものの、四天王中最強だった味噌ラーメン醤油味が敗れたことで路頭に迷ってホームレスをやっているという噂が流れたため、いじめたり憐れんだりするやつはいても倒そうとまでするやつはいない。
何より今はローブのフードで顔を隠しているし、側に俺がいる。
俺がリリスを倒そうとした冒険者を全て返り討ちにしたことはもはや伝説となっていて、むしろここにいたらリリスより俺の方が危ない。
そんなわけで用事を済ませてさっさとここを出よう。
受付に行き、その中で一番美人なお姉さんに声をかける。
「ちょっといいか?モンスター討伐系のクエストを探してるんだけど。多少強くてもいいから報酬のいいやつで」
「あら、いきなり元気な冒険者様ですね。でしたらハイパーウルトラダイナマイトドラゴンの討伐なんてどうでしょう?」
「ハイパーウルトラダイナマイトドラゴン?」
名前がダサすぎて思わず聞き返してしまった。
「あの、勇者様……多分ですけど、ものすごく強いドラゴンなのではないかと」
「リリス……いやそりゃすごそうなのは名前でわかるけどさ、何でそんな小さい子供が頑張ってつけたみたいな名前なんだよ」
「よくご存じですね。私の甥っ子が命名したんですよ」
「子供に何やらせてんだ」
「しょうがないですね……ではやめますか?」
ため息をつき、やれやれと言った表情のお姉さん。
何だか俺が悪いみたいになっている。
「じゃあそれでいいよ……登録させてくれ」
お姉さんが出してくれた紙に俺とリリスの名前を書いていく。
冒険者組合でのクエストは、特に討伐系クエストでの獲物の取り合いの様な混乱が起きないように、各クエストを誰が遂行するのか、登録して始めて開始されるようになっている。
「はい、登録ありがとうございます。これが詳細ね」
ギルドのお姉さんからターゲットの居場所等が記された紙をもらい、俺たちは冒険者組合を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます