#5

 ブロック島、上空。


「Wooohoooo! 魔法サイコー!! 俺のジャンプ装置とは大違いだな。ドンピシャじゃねえか!」


「何があったかは知らないけれど、大声出さないでくれるかしら」


 大西洋に浮かぶ島全体が町となっているリゾート地、ブロック島。人口千人程度のこの島の空にワープアウトしてきたオーバーサイクことミュールとウォーヘッド、そしてイヨの三人は、彼女が展開した魔法の翼により降下を開始。そしてはしゃぐイヨだが、彼は以前ポータル発生器の事故に巻き込まれ異世界へと飛んでしまい、そこでひどい目に遇った経験を持っていた。現状すら大概であろうに、どうやらイヨという獣人は案外にも人間の世界が気に入っているようである。


 頭の上ではしゃがれてもその金属質な顔に嫌な色一つ見せないウォーヘッドは島の様子を見渡す。するとブロック島に大穴を開けているグレートソルト池、そこに本来ある筈の無い建造物が池の真ん中にある事に気付く。光の柱もそこから出ていた。

 加えて周辺からは幾つもの煙が上がり、平和なはずの島が今はのっぴきならない状況であることが良く分かった。まるで戦争の様に、戦いの音は強風の中に居ても彼らの耳に届いていた。


「どうなっている」


「パンクの連中が抵抗してんだろ。あの設備を整えんのにかなり苦労してたみたいだしな。それをいきなり横から出てきた正体不明な奴に奪われりゃこうもなる」


「どうするの?」


「行くしかない。サイク、直接施設に乗り込むぞ」


 ウォーヘッドの指示に頷くオーバーサイクは座っていた彼の腕から離れると魔法により空気の抵抗を無効化。みるみるうちに上がって行く落下速度の中でイヨはウォーヘッドにしがみ付いた。

 頭を下に向けた二人、そして三人は魔力の光を纏い一筋の流れ星となって施設へと突っ込んで行く。視覚による目標の視認は最早不可能、魔法により現状を直接脳内に投影しながら軌道をオーバーサイクは調整して行く。


 そして数秒で施設へと至った三人は急停止、しかしその際の負荷すら魔法と言う超常の力は打ち消して見せ、空からでは点の様だった施設はしかし接近してみると十二分に巨大であり、それは巨大な筒の様であった。

 外壁に取り付き、ゴーレムと交戦しているのはパンクラチオンの兵士たちだ。施設周辺を浮遊する三人、ウォーヘッドが遺跡の所在をイヨに訊ねると施設の直下、池の更に下の地下にあるのだという。


 余計な消耗は避けるべきというウォーヘッドの方針に従い、オーバーサイクがイヨの記憶を読み取り遺跡の位置を特定、転移門を展開しようと試みる。


「――なにこれ、なんで視えないの!? ジャミング程度なら平気なのに……」


「サイク、どうした」


「イヨの記憶を覗けないの。ゲートも安定しないし……ダメ、これじゃ転移できない」


 表情を歪めるオーバーサイクであったが、状況はそれを許すことなく、三人に気付いたパンクラチオンの兵士の一人が彼女に向けてアサルトライフルを発砲。それを躍り出たウォーヘッドが身を以て盾となり弾丸をその鋼鉄の体で弾く。弾丸が命中する鋭い音が連続して響き渡り、いくつかは頭部や眼球などの急所に命中しているのだが防御すらしないウォーヘッドはまるで動じない。やがて兵士の持つライフルの弾倉から弾が尽きると、今度はイヨが顔を出しフュージョンカノンを慌てる兵士へと突き付ける。


 そのフュージョンカノンにはいくつかのモードが存在し、核エネルギーをビームにして対象を蒸発させる通常モードの他に、非殺傷用のインパクトカノンモードというものが市民団体からの苦情により已む無く設けられている。イヨは銃に取り付けられている出力調整用の摘みをセーフゾーンまで動かし、そうしてから引き鉄を肉球で絞ると銃口からビームではなく衝撃波が生じて命中した兵士を吹き飛ばしてしまう。


 軽々吹き飛ばされた兵士を見てあれでも死ぬのではないのかとオーバーサイクが訊くと、しかしイヨはそこまで面倒見れないと何処吹く風か。


「ワープが出来ないのであれば仕方があるまい、危険だが突入しよう。サイク、私から離れるなよ。イヨもだ」


「よっしゃ、なら玄関は俺が開けるぜ。Knock、Knock……Boom!!」


 娘をこれ以上の危険に曝したくなかったウォーヘッドはその決断を苦虫を嚙み潰したような表情をして下し、その気持ちには気付きながらも心配ばかりされたくないオーバーサイクは逆に意気揚々と返事をして両目の輝きを強くするが、その前にイヨが銃の摘みをデンジャーゾーンまで振り切らせ、赤熱するリアクターが唸りを挙げているフュージョンカノンを構え、そして発射されたのは赤色をした太い光線。それは施設の外壁に命中すると共に大爆発を起こし、余韻のプラズマと陽炎を残して内部へと続く大穴をそこに作り出した。


 得意気に鼻と喉を鳴らし、蒸気を上げるフュージョンカノンの銃口に吐息を掛けるイヨ。オーバーサイクは困惑した表情をして彼を見て言う。


「わたしがやったのに……」


「俺もキモチ良くなりてえの。ほれほれ、早くいかねえと、新手だぜ」


 見ると池を武装したパンクラチオンのボートが何隻も、そして空には飛行型と思わしきゴーレムが明らかにオーバーサイクを目指して飛んできていた。


「……パンクラチオンだけじゃなくて御同輩にも気付かれたわね」


「行くぞ、二人とも」


「アガってキたぜ」


 そして大穴に飛び込んだ三人。追っ手を振り切る為にその後、オーバーサイクが壁を修復して塞いでしまう。そして改めて施設内部に目を向けると、そこには現代の技術とは思えない設備が幾つも用意されていた。外の喧騒とは裏腹に、内部は機材の駆動音程度しか物音はしていない。イヨ曰く、機材は彼の相棒が用意したものであるとのこと。何故犯罪組織であるパンクラチオンにここまでしているのかとウォーヘッドが訊ねたが、イヨは報酬が良いからだと何の葛藤も無さそうに答えてみせた。


 内部は意外にも広く、どうやら遺跡の解析に必要になる膨大な量の設備を空間を圧縮することにより無理矢理施設の中に詰め込んでいるようだった。一行は地下への通路を探して内部の探索を進める。


 人の気配は無い。オーバーサイクが放出した魔力を張り巡らし、隅々まで施設内部を探って行く。そしてしばらくしてエレベーターを発見し、そこへと向かおうとした時であった。


「クレイジー・キャット、戻っていたとはな」


 背後からの声に振り返る三人。振り返るとそこにはウォーヘッドに匹敵するかと言う程の巨体をした男と、パンクラチオンの兵士が三人。いずれもトサカの様な装飾が施されたヘルメットを装着した所謂エリート兵たちだ。その中でも巨漢は特別な雰囲気を纏っている。


「おおっと、こいつはエドワーズ。シェルパンチャー殿ではございませんか」


 シェルパンチャー。指名手配もされているテロリストであるエドワーズ・リンクスの異名。彼はニューヒューマンと呼ばれる突然変異を起こした人間の一人であり、その能力は全身に甲殻類の殻に似た物質を生成して纏うことが出来るというもの。その怪力も相まって、硬く決して潰れる事の無い拳を武器とし、その異名が付けられた。


 どうやら知り合いらしいイヨはウォーヘッドの肩から飛び降りると、シェルパンチャーの方へと一人歩み出て行く。そうすると早速その体を甲殻に包んだシェルパンチャーが特別大きくいぼの出た殻を纏わせた両拳を突き合わせて威嚇を見せる。それに合わせ銃を構える兵士三人、そして戦闘態勢に移るオーバーサイクとウォーヘッド。だが、唯一イヨだけはフュージョンカノンを肩に掛けたままその尻尾を緩やかに揺らしていた。


「よーよー、お二人は先に行ってな」


「なに言ってるのよ!?」


「平気だって、余裕余裕。ほれほれ、しっしっ」


 ぱたぱたと尖がった耳を倒したりしながら横顔だけ向けたイヨの思わぬ申し出に、信じられないとオーバーサイクが出ようとする。だがイヨは相変わらずの様子で彼女に引っ込む様に言うと、次にウォーヘッドへと目配せする。


 それを受けてウォーヘッドがオーバーサイクの事を抱え上げるとすぐに踵を返し、エレベーターへと歩き出す。発砲が開始されるがオーバーサイクは完全にウォーヘッドの巨体の影に隠れてしまい、弾丸は全て彼の背中に命中こそすれども弾かれてしまう。


「ミュールに恨まれたくはない、頼むから死ぬなよ。クレイジーキャット」


「ぜったい死んだりしないでよねっ!」


 二人の言葉に適当に笑って返すイヨは、エレベーターへと入って行く二人を見て舌打ちをして駆け出そうとしたシェルパンチャーに向けていつの間にか手ならぬ尻尾に巻いていた筒状の物体を放り投げる。それは二人の間で炸裂し、凄まじい閃光を放った。


 イヨは事前にサングラスをそのくりくりした大きな目に掛けて事なきを得るものの、シェルパンチャーと兵士たちはまんまと目を眩ませて呻き声を上げていた。そうして悠々とフュージョンカノンの摘みをデンジャーゾーンとセーフゾーンの中間に移動させたイヨは、それを両手に抱えて引き金に手を掛ける。

 そして軽快な音と共に、フュージョンカノンの銃口が展開し新たに三つの銃口がせり出してくるとそれは高速で回転を始め、次の瞬間にはそこから無数の光弾が吐き出され一面に降り注いだ。


 甲殻に身を包んだシェルパンチャーは兎も角、兵士たちはその光弾を受けてあっと言う間に吹き飛ばされ再起不能へと陥ってしまった。

 それを見て満足気なイヨが引き鉄から指を離すと、光弾の射出は止まりからからと音を立てて銃身だけが僅かな間だけ回り続ける。そして彼はサングラスを取りつつ、それを今だに目元を押さえているシェルパンチャーへと投げ付けながら言った。


「メリークリスマス、エドワーズ。俺からの贈り物、喜んでくれた? 嬉し過ぎて他の奴らはノックアウトされちゃったみたいだぜ」


「クソッ、この畜生が……叩き潰してやる!」


「おーっかねえ。へっ、んじゃあ始めようぜビッグガイ。きゃっと言わせてやるぜ」


 怒り心頭、自身の身長の半分も無いようなイヨに向けて突進を始めたシェルパンチャーに、彼は通常モードに戻したフュージョンカノンを突き付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る