コップの中の漣

ぴおに

第1話

「日本では、茶柱が立つといいことがあるって言うんだろ?」

初めてのデート。

カフェでの他愛もない会話で

彼がそう言った。

「そうよ、昔からあるジンクスね」

青い瞳が優しく笑った。

「僕の国では、コップの中に漣が立つカップルは結ばれるって言うんだ」

「漣?」

「コップを両手で持ってみて」

私はテーブルの上に置かれた

水の入ったグラスを

両手で包むように持った。

すると、彼も両手で

私の両手を包むように持った。

「これで漣が立つの?」

「うん、コップの中をよく見てて」

じっと見つめていると

小さな漣が立った。

「えー!すごい!信じられない‼」

「僕達、上手くいきそうだね」



「それから、お付き合いを始めて

結婚して、あなたが生まれたのよ」

「へぇー!すごい!本当に漣が立ったの?」

「ええ、本当よ。

パパが帰ったら聞いてみて」



「パパ、おかえりなさい!ねぇ、ほんとにコップの中に漣が立ったの?」

「漣?ママに聞いたのかい?」

「うん、私も見てみたい!」

「そうか。じゃあやってみよう」

テーブルにグラスを置いて

娘に両手で持たせて、夫が両手で包む。

「コップの中をよく見てるんだよ」

水面が小さく波立つ。


はっ!


青い瞳がいたずらっぽくウインクした。


「わーすごい!ほんとだ!」

「すごいだろ?」

「うん!じゃあ私

パパのお嫁さんになれるね!」

「そうだね」


娘を寝かしつけた後

私は夫に問いただした。

「さっきのアレ、どういうこと?」

「バレちゃったね。

そうだよ、あの時もコップの水面に

コッソリ息を吹きかけたんだ。」

私を抱き締めて、おでこにキスをした。

「ごめんね。

キミを僕のものにしたかったんだ」

私だって

貴方のものになりたかった。

「騙されてあげたのよ」

精一杯の強がりを言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る