(小説の主人公)
小説の主人公が
ただ無心に
雨に濡れようとした時だった
その水は肌さえ染められず
伝い流れるばかりで
彼は滴り落としてしまう
自分に染み入る雨を
失ったように感じながら
本当は存在しないのだと気づいた
それでもなお
崩れぬ自分を滑稽だと笑い、呆れて
この時ばかりは雨に感謝していた
思わず挟んでしまった栞を
最後に見つめ私は眼を閉じた
偶然の驟雨は
遠い音を染めるようで心地いい
私は白昼夢に微睡みながら
身体を丸め五感を忘れようとした
音は治まり
私は五感を確かめようと道を歩く
雨上がりの余韻の滴る音は
まだ続いていく雨音のようで
白く霞んだ霧が私を包むものだから
雨降りの夢想の再現
黒い黒い彼の雨とは違って
行き渡る白い雨
時々感じる冷たさも
樹々の木霊の共鳴のようで悪くない
とはいえ
樹々は夢を見ないし
人々は業を見ない
醒めない湿気が人を包むものだから
笑い合う人の不在を恐れ
私は揺れ落ちた日記帳の栞を拾い
滲んでは増えてゆく染みを見つめている
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