灰の萌芽











歩き慣れた道だったのか

久しい道になってしまったのか


そんな疑いは

グラスに着いた気泡のように

傾けては浮かんで

消えてしまえば元の水になる




 でも

 きっと それは夜の感傷




梅か 桜か

枝先の点描の曖昧さのように

観念的な物思いには

陽射しが反射して

それを許さない




視界は紅茶に染められて

枝葉には穏やかな薔薇が滲んで


この道を真っ直ぐ歩きながら

サティが描いたワルツに

身を埋めて




足音は聞こえないのに

ステップが風景に響いて


出会ってもいないのに

さよならを練習し続けて




色を見失った舞台の上

見えない雨に濡れる僕を

壊れた傘ではどうしようもできない


受け止めようと逆さにしても

水は零れていくばかり




障ることができない




雨が止むとき

何か 失ってしまうなら


きっと

今が 幸せ なんだ

と夜は煩く笑う




雨降り

月光に縫われて雨乞い




雲が 雨が

重なれば

それほどに空は遠い


遠すぎる










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