第3話 オレは障害者なのか?
ついこないだの夜、カースケさんにそんなことを問いかけられた。
そんなこと、聞かれるなんて思ってなかったから本気でびっくりした。
私は何と答えるのが正解だったんだろうか。
そして、彼は障害者なのだろうか。
生きることに対して何らかの支障を来すことを考えると、カースケさんの持つ自閉スペクトラム症は障害と言えるだろう。
たぶん、普通の子(最近普通という定義も自分の中で分からなくなってるけれど)を育てるにおいて必要のない気の回し方が必要で、いらん気をいっぱい使わないといけない。
これまで何度「めんどくせーっ!!」と叫んだことか。
でも、よく考えたら、それってみんなそーやん??
子どもの個性に沿っていろんな配慮もいるやろうし、別に自閉症やからどうってわけでもないかなー、とも思う。
生きることに差し障りがある人を障害者というなら、人間全て障害者だ。
目に見えるやつも、見えないやつも、人はみんな何かしら抱えているもんやと思う。
心理検査なんて、きっかけなければ受けないから知らないだけ。全員受ければほぼ100%近く何らかの偏りが見えてくるはずだ。
でも、そういうことは置いといて。
カースケさんが診断された自閉スペクトラム症に対して障害者か否か、というなら、イエスともノーとも言い難いんじゃないかなー、と思う。
自閉スペクトラム症にもいろいろあって、カースケさんがその中の何に当てはまるのかはいまだ定かではない。
今分かっているのは、カースケさんの場合は知的には全く問題がなく、ただ得意不得意分野にバラツキがあり、やたら劣等感が強かったり自虐的だったりするだけ(だけ、とか言うて、ここが大問題やねんけどね)のこと。
だから、ぱっと見ただけじゃ何も分からない。この子の脳みそが、普通の人とは違う働き方をしているなんて、誰にも分からないのだ。
親である私も、包丁持ち出し事件みたいな物騒なことが起こらなければ、なんかおかしいなー、と思いながらも医者にまで行かなかったかもしれない。
それでも現実は甘くない。
診断を受けたから、というのもあるけど、これまで思いも寄らなかった問題が色々出て来る。
支援コーディネーターの人と話し合ったときに「普通中学を目指すのか、支援学校を選ぶのか」と聞かれたときに、ほんまにびっくりした。
普通中学の選択肢しか持ってなかった私が楽観的すぎるんかな?
自殺願望があったり自傷未遂を繰り返してる子はガチの障害者なんかな?
ここからの導き方次第やな、と思ってるから、ちょっと変わったヤツやけど障害者やと考えたことはなかった。
それでも世間的には、彼は障害児といわれるみたいで。
実際言われてみると、障害者という言葉は結構重い。だってそこには目に見えない偏見があるから。
かく言う私にも、心のどこかに偏見があるからこそ、こんな違和感を抱くんやろうけど。
正直、自分の中でその点については、堂々巡りだったりする。
だから、カースケさんの問いは私の中でも答えの出ていない問題だったりもして、なんて答えるべきか、ものすごく悩んだ。
適当にごまかす方法なら、いろいろあったのかもしれない。
でも、カースケさんは適当にごまかした言葉とか、子どもには分からんやろ、なんてことが通用する相手ではない。
そういうの、すべて見抜くから。だから絶対真正面から受け止めて、しっかり返さないといけないのだ。
だから、悩んだけど真剣に自分の思ったことを伝えてみた。
まず、カースケさんのようなレア脳(カースケさんに分かりやすいようにそのように説明してある。診断名言うたところで、どーしよーもないから)を持つ人を、障害者と呼ぶ人ももちろんいる。なんせレアってことは多くの人とは違うってことやから。
ただ、それを障害にするかどうかはカースケ自身にかかってるんとちがうやろうか。
レアやということは、ほかの人とは違うモノが見えることで、ほかの人とは違う考え方ができるということ。
それを生かすために、今とーちゃんもかーちゃんもいろいろ考えてるし、放課後デイの先生も考えてくれてはる。
カースケは、素晴らしいもんを持ってるんやから、それをどうしていきたい?
この説明が、今の私の精一杯。小学校3年生にどこまで伝わったかは分からんし、実際「オレそんな素晴らしいもんなんか持ってるか~?」と半信半疑の様子やったけど。
今は全部信じなくていい。
半信半疑でいいから。
周りの人間がカースケの可能性を信じてそれを伸ばそうとしている、そのことだけは感じ取ってくれればいいな、と母は思うのです。
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