第17話

「ーーつまり、アマオウ様が作ったお菓子を食べてステータスが上がるのを防ぐ武具が欲しいんですね?」

「そうです。現時点で分かっているのはお菓子にアマオウ様の魔力が宿り、その魔力を取り込む事で身体が活性化されるという事」

「ならばと魔力をまったく出さない状態でお菓子を作ればと思ったんじゃが、魔力をまったく出さないというのは無理じゃったし……そもそもおかしいんじゃよ。魔力の影響でステータスが上がるならなぜ〝ジュジュのステータスも上がるのか〟」


ジュジュの武具要らない発言にかなりのダメージを受けたリングドーヴが回復するのを待ち、今は置いてあったテーブルを皆で囲んでおる。真ん中には人数分に切られた羊羹と、セバスチャンがどこからか用意した緑茶。和菓子と言えば緑茶じゃよの!!

さてステータスが上がる原因である魔力じゃが、元々持っておるものをジュジュが取り込んでも変化はないはずじゃ。

なのにジュジュのステータスまで上がるという事は、おそらくじゃがお菓子の中で魔力が変化しておる……本来はそんなよく分からぬものを食べさせたくはないんじゃが、身体に害は無いようじゃし、お菓子を作っても食べてもらえないなど拷問じゃしの。


「という事は、この目の前にある羊羹もステータスが上がるんですかの?」

「うむ。豆類じゃから素早さが上がるはずじゃよ。キュローは食べれるが……リングドーヴは、というかその顔面、口はあるのかの?」

「大丈夫ですぜ! こうやって顔面に押し付ければーーほらこの通り吸収してしまいます!! ってぇ美味すぎませんかこりゃああ!!!!」


見た目的には石に羊羹を塗りたくっていただけなのじゃが、少し目線を外した隙に塗りたくられた羊羹は消えておった、怖っ。

味まで分かるのかと僅かばかり驚いたが、人造人間(ホムンクルス)なら当然かの。自動人形(ゴーレム)と違って人造人間(ホムンクルス)は飯も睡眠も必要とする生物じゃから。


「父が耳ダコが出来るくらい自慢していたアマオウ様の羊羹(ようかん)……食べてみて驚きました。小豆を使ったお菓子は魔界から取り寄せていますが、この羊羹は飛び抜けておる。口に入れた瞬間に微かに香る小豆の風味、いつも食べている羊羹よりすっきりしているのに、いつまでも余韻が舌に残る甘み。参りました、これからはどの羊羹を食べても物足りなく感じてしまいそうですな」

「そこまで言ってくれてジュジュも嬉しいぞい。今回持ってきたのは練り羊羹、これはテングサという海藻を原材料にした寒天を用いて、煮た小豆を固めたお菓子じゃの。ニッポンで有名なお菓子じゃが、元々ニッポンで広まっておったのは蒸し羊羹という長期保存に適さないほうじゃった。それでは人里離れた者は食べられぬ。甘いお菓子をもっと人の手の届く場所に……そんな思いがあったかは知らぬが、そうして寒天を使い、適切な場所なら常温で一年以上保存しておける練り羊羹が完成したんじゃな。この逸話も相まって、異世界のお菓子で気に入ってるお菓子なんじゃ」


ちなみに甘さを控えるため、甘さを加えず糖度だけ上げられるトレハロースも入れておる。すっきりした甘さを感じられるのはそのせいじゃろ。


「くっ、アマオウのお菓子が目の前にあるのに食べられないなんて……私の胃袋が泣いているわ!?」

「おぬし地上に降りてきて何ぞあったかの?」


不変であり不老の神族が成長できるよう祝福を受けておるリメッタ。

じゃがジュジュの作った物を食べると一ゾン太るという呪いにも似た効果もくっ付いてるので、いやこれは呪いじゃな。

神界でも美の化身と謳われる月の女神三姉妹の一柱がただの食いしん坊になってしまった事、大神アンドムイゥバに何て言おうかの。


「お菓子の中の魔力がステータスへ影響を与えるなら、外側から魔力を注いで、影響も結果も全て無かった事にはできる。じゃがそれには、魔力を注がれたお菓子を中心に魔境が出来上がるほどの魔力を使わねばならんのじゃ。現実的ではないじゃろ?」

「そうですな……影響や結果に干渉する、という事なら実は父が今作っているものがありましてーー父さん。〝アレ〟は今どこにある?」

「〝アレ〟ならばーーじゃじゃじゃああん!! この身体の中に大切に閉まっていたぞ!! 凄いだろう!!」


片手を振っておざなりに反応するキュローを尻目に、リングドーヴの腹の辺りから石が割れる音がして、まるで芽がでるように武器の柄らしきものが生えてきた。

リングドーヴが手で引っ張り出してみれば、それは少しばかり大振りなナイフであった。他の武具と違って刀身は青みがかっていて、はらはらと青い火の粉を僅か零しておる。

柄も特段凝った装飾がされておるわけではなく、布を巻いた実用一辺倒な見た目じゃ。


「これは……なんと、ただそこにあるだけで〝世界の理(ことわり)に干渉〟しておるの。この青い火の粉は干渉された理が剥がれて見えておるのか」

「さすがアマオウ様な事はありますなあ!! その通り。これは神族の決めた世界のルール、理すら切り裂く事のできる武器。名付けるなら〝理乃破壊者(ルールブレイカー)〟!!」

「聞いてて恥ずかしくなる名じゃの」

「私も何度も止めてくれと言ったんですがーーですが性能は本物です。これを使えばお菓子に含まれる魔力を切り裂き、ステータスへ影響のないものに変えられるのでは?」

「うむむ」


リングドーヴから手渡された理乃破壊者(ルールブレイカー)に意識を集中し、残っておる羊羹に切っ先を向ける。

少しして、「ダメじゃな」と呟いてジュジュは嘆息した。


「ジュジュの魔力を通しそれを浴びたナイフから落ちる理の火の粉。お菓子にかければ、ステータスを上げるという世界のルールをある程度抑えられるとは思う。しかしこのナイフでは、それに必要な魔力量を保持できん。せめて格の低い神具くらいの性能がなくてはの」

「神具ほどの性能ーー父さん」

「おう! 俺も同じ事を考えていたぜ息子おお!!」


リングドーヴとキュローが呼び合ってニヤリと笑い、熱意のこもった目をジュジュの方に向ける。


「なんか面倒な事になる予感がするわ」

「右に同じくじゃ」

「鍛治職人が燃えるような目をする時は大体決まっておりますよ」


三人めいめいに思った事を言うておったら、リングドーヴが相変わらずどこから発せられておるか分からん胴間声を上げた。

内容は、だいたい予想通りのものであったの……


「マグィネ霊山の頂上には炎帝鳥(えんていちょう)ホロアが住むと言われていて、その羽根は神族にすら火傷を負わせるらしい!! それが採ってきてもらえればアマオウ様が満足いく武具が作れるはずだ!!」


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