二胡の詩

山本二胡

赤い約束

二十年になる

二十年後の再会を誓ってから

僕は覚えているが

彼女は覚えているだろうか

きっと覚えていないに違いない


三十才になったらまた会おう

みんなだいたい三十才で結婚するんだよ

三十才になったらまた会おうね

それで結婚しよう


電車は田園を走る

ハンカチで汗を拭った、暑い

夏はもうすぐ終わる

私がずっと

待っていた夏


旅行鞄には、花柄の浴衣


煙草の煙は、蚊を呼ぶって


神社には香具師、裾を揺らして


西瓜の汁、袖なしの汚点


思い出の場所、駆け上がる階段


心は揺れる、もうすぐ約束の時間


駆け上がる、駆け上がる、心ははずむ


待っていた、ずっと、それもここまでか


その木は、確かに立っていた


すれ違う女の甘い匂い、ナンパでもしてみるか


木の下に立つ、やっと


約束は果たされなかった


約束を果たした


ここに、また来れた

あなたはいなくてもいい

私は二十年思った

そしてここから

私の明日が始まるんだわ


煙草の煙が揺れる

誰が一番可愛いとか

そんな下衆なことを考えて歩いてる

きっとさっきの女が一番だ

あの、ついさっき、階段で、すれ違った……

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