雨と君の声

祥之るう子

第1話 星空にひとり

 ――あ。

 これは、彼女の声だ。

 この暗闇に、優しく響く、どこか懐かしい彼女の声。

 物語を朗読している声、歌を歌う声、なにかを問いかける声……色とりどりの美しい声。


 今日は、歌を歌っているようだ。


 地上のあちらこちらに指定された無数の観測地点のひとつに、彼女はいる。

 あちらの本日の天候は雨のようだ。


 そう、彼女は1年間のサイクルの中で、この時期の雨の日にだけ、声を発してくれるのだ。


 地上に人が住めなくなって、生き残った人々が地下シェルターや、宇宙へ避難し、地上から人間が消え去って、もう1000年以上が経つ。

 私は、いつか地上へ帰りたいと望む人々によって造られ、そらへと放たれ、周回軌道を半永久的に航行しながら、地上の状況を観測し、データを基地と宇宙ステーションへ発信している。


 それはそれは、ひどく退屈な日々であった。

 何年、何十年、何百年経っても、私に入力された「人類が安全に生活できる数値」を観測することはなかった。

 人々が、私の存在を忘れてしまっても、私の使命には終わりが来なかった。


 本当に、退屈な日々であった。

 彼女に出会うまでは。


 彼女は素敵な声で、私に話しかけてくれる。

 所詮味気ない旧型の人工知能である私には、到底綴ることの出来ない、美しく、色鮮やかな言葉を紡いでくれる。


 私は、1年のうち、彼女がいる観測地点が雨季となる日を毎日心待ちにするようになった。

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