白亜の塔のラプンツェル

はやる気持ちを抑えて、

私は車を走らせる。


今日は待ちに待った、

あの人の退院の日。


夏休みも取ったし。


一週間ずっと、

一緒にいられるの。


白亜の巨塔が見えてくる。


渋滞にちょっと、落ち込んで。

その距離が、もどかしい。


気分はまるで、

囚われのお姫様を助けにいく、

王子様。


久しぶりの普通の服。

すっかり準備も整って。


あなたは、満面の笑顔。


まるで浮世にいる気がしなかった。

天上から下界に降りてきた気分だよ。


あなたはそういって、一歩一歩を確かめる。


汗ばむ夏の陽気にも、

現実を感じる、とはしゃいだり。


塔の上から見ていた景色に、

自分がいることが不思議だ、と笑う。


いつも見ることしかできなかった道を通って、

いつも探していた家に、帰るんだ。


やっと、戻ってきた。

二人の日常が。

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