俺はどこにでもいるクソ童貞

ロッカー・斎藤

プロローグ 俺はセフレが欲しい

 俺はセフレが欲しい。

 略さずに言えば、セックスフレンド。

 そう、あれだ。体だけの関係って奴。そういうのに憧れるお年頃なのだ、俺は。何せ、高校二年生。そろそろ進路とか、将来の不安が絶えないお年頃だからこそ、恋愛に現を抜かすことなく、肉体関係だけを求めていきたいと思う。

 いや、違う。

 すまない、見栄を張った…………素直に言おう、エロい事がしたい。具体的に言えば、セックスがしたい。早めにこの童貞というバッドステータスを解除したいのである。

 なにせ、このバッドステータスがくっついていると女子と会話する時に交渉判定で大分マイナス補正がかかるからな? 「ひゃぶほう」とか訳の分からないことを口走ってしまう。なお、魅力判定なんて童貞というだけで好感度マイナスに突っ込んでいる模様。

 ああ、当然ながらイケメンは除く、だ。

 人は見た目が九割だから、早々に諦めろなんて、もっと早めに教えて欲しかったよ、ママン。

 かーっ、しょうがねぇもんなー! イケメンじゃねーからなぁ、俺は!


「だから、恋愛は諦めるって?」


 なーんてことを昼休みにだらだらと話していたら、したり顔でマイフレンドの佐藤が訊ねてくる。

 マイフレンド佐藤。

 俺の親友にして、裏切り者。

 高校一年生の時に陸上部のマネージャーと付き合い始めてクソッタレのイケメンだ。しかも、佐藤は特に陸上部ですらないのに陸上部のマネージャーを落とすという、どこでそんな技術を身に着けて来たんだ? という高等コミュニケーション能力の持ち主である。

 俺は「がるるる!」と威嚇しつつ、貴様には分からんだろうなぁ! と惨めに佐藤に吠えかかった。


「別に顔だけじゃないだろ、恋愛って」

「でも、イケメンの方が有利じゃん」

「イケメンでも中身が糞なら、フツメンの気の合う奴を選ぶぜ、きっと」

「ねぇ、俺ってフツメン? 流石にブサメンじゃないよね? 最低でも中の下レベルだよね? そうだよね?」

「…………つまり、大切なのは相手を思いやる心な訳だ」

「無視すんなよ!!」


 俺は露骨に機嫌を損ねた。

 ふーん、いいもんねぇ! 俺は恋愛なんて元々興味ないもんねぇ! 初恋なんて幼稚園の先生だしぃ! それ以来は恋よりもエロスが先に来るような人間発情期よ、俺は。

 だから、セックスフレンドが欲しいのだ、俺は。

 恋愛とか、そういう面倒そうなのは、ごめん被る。

 肉体関係で結ばれた、互いの利害関係のエロス。

 俺が求めるのは、それだけだ。


「でも鈴木……お前、童貞じゃん」

「あああああああああ!!!! テメェは違うのかよぉおおおおお!!」

「違うよ?」

「はーい、A組のモテない男子共集合ぉ! 今から、この裏切り者を処刑するぞ!!」

「「「非童貞は死ねぇよぉおおおおおおおおお!!!」」」


 俺は民主主義で友を屠った後、教室で黄昏る。

 ああ、やはり理想は理解されない物なのだな、と。

 いいじゃんか、セックスフレンド。

 セックスとフレンド。

 俺の好きな言葉が二つも入っている辺り、最高な言葉だと思う。恐らく、歴史上で三番目ぐらいに高尚な言葉だ。俺も、大学生になったらイケイケの男になって言ってみたい。「あ、彼女? ちげーって、そういうあれじゃなくて、もっと、こう? それ込みの友達、みたいな?」とか、言ってみてーなぁ、ちくしょう。


「んじゃ、もしも、お前が誰かに恋したとしたら、どうする?」


 学生服を剥ぎ取られて、パンツ一丁になりながら佐藤が俺に訊ねてくる。

 くそ、今から磔にされるというのに、どうしてそんなイケメンフェイスを維持できるんだよ、こいつは。やはり、顔が違うと中身もイケメンになるのかねぇ?

 とりあえず俺は、そんなこと有り得ないと思いつつも、佐藤の言葉に答えた。


「その時は、空からエロ本でも降らせてやるよ。ま、無いだろうけどさ」

「いやいや、どうかねぇ?」

「んだよ、そのしたり顔」

「ははは、だってさ、俺たちは男子高校生だぜ? 世界で一番愚かな生物だぜ?」 


 佐藤は思わず女子がときめいてしまうような笑みで俺に言う。


「世界の一つぐらい、救えるような恋をするかもしれねーだろ?」

「…………ふん、とんだロマンチストだよ、お前は」

「童貞の癖に、セフレ獲得を目指すお前に言われたくはな――」

「よし、磔にして学内を回るぞ!」

「「「おぉおおおおおおおおっ!!」」」


 俺は十字架に貼り付けたマイフレンド佐藤を、神輿の如くわっしょい! わっしょい! しながらふと考え込む。

 恋愛、ねぇ?

 好きとか嫌いとか、そう言うのよりも、俺はエロス優先だ。

 とにかく、童貞を卒業したい。お金を溜めて高いゾクフーで、綺麗なお姉さんと一発かましたい。

 そうすればきっと、俺は童貞じゃなくなって、ようやく真っ当に恋愛できるのだと思う。

 だって、童貞のまま恋に落ちたりなんかしたら、きっと悲惨だぜ?

 だから、何度でも、俺は飽きずに言おう。

 ――――ああ、セフレが欲しい。

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