第5話 女

「人間だ」

 顔が見えた。あれは紛れもなく人間だ。やっぱり人間だった。僕以外にも人間がいた。僕の中に安堵と喜びと、希望とがぐちゃぐちゃにないまぜになった興奮がぐるぐると渦を巻いた。

「お~い、お~い」

 僕は走りながら、もう叫んでいた。

「お~い、お~い」

 一歩一歩ごとに輪郭がはっきりしてくる。

「女の人だ」

 それは女性だった。裸の女性だった。真っ白いきれいな肌をした裸の女性が海の中に立っていた。

「お~い、お~い」

 必死で手を振り叫ぶが、波と風の音で聞こえないらしい。女性は上半身だけを海から出し、波に小さく揺られながら静かに海に浸かっていた。

 その時、ピンと上を向いた形の良い乳房と、凛と整った顔が僕の方を向いた。

「あっ」

 女性もとても驚いた表情をして僕を見つめた。時が止まったみたいに僕と女性はお互いを見つめ合った。

「きゃっ」

 女性はふと我に返って、慌てて海に裸の上半身を沈めた。

「あ、い、いや、あの・・」

 僕も慌てた。

「あの、僕は全然怪しい者ではなくてですね」

 女性は顔だけ出して少し怯えた表情で僕を見つめている。

「僕はあの、あっちで人がいるのが見えて・・」

 僕は誤解を解こうと必死だった。

「人がいるって思って・・」

「あ、あの・・」

 女性がそう言いながら、戸惑った視線を僕の後ろの砂浜に送った。そこには、彼女の服が置いてあった。

「あっ、ごめんなさい」

 僕はその場から離れ、慌てて後ろを向いた。

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