第6話
「海釣りですか、良いですね!お天道様の下で友達と遊ぶ、それはとても素敵な事だと思います!」
ある日の井矢見懐木との会話、この病室と言う世界しかない井矢見懐木に彼女の知らない外の世界を知らせる二人だけの時間に、天月博人の中に彼女のふとした言葉が木霊した。
「海かぁ、私、歩く力がほんの少しあったなら、見て見たかったですね」
井矢見懐木の夢は、見て感じる事、ここは島、色んなところで嫌でも目に入る。この病院からでもほんの数分歩けば容易に目に入るはずだが伊矢見懐木にはそれは叶わない。もしかしたら今この天月博人が外を語るこの行為は、慰めでしかないかもしれない。
そう、思うようになっていた。
「オルトレの二階にあるゲームフロアいかね?」
「生まれてこの方、自分のお金というのを持った事が無いんですけど」
「僕とか、お小遣い貰えてるわけないよねって」
「すまん、本当に色々すまんかった。じゃあどうすっかな……俺のメダルゲームのメダル分けるか」
「メダルゲーム? 何それ」
「ジブンも分かりません」
「ほーう知らないか、ならよし、今日はメダルゲームをするぜ!」
そう言う事で、スーパーマーケットのオルトレへ遊びに行く事に成った。
友影可威が二階のゲームフロアで四ケタ貯蔵していたメダルバンクから数百枚取り出し,手始めにと五十枚ずつ分配してくれる。此処のメダルは百円で二十五枚だ。二百円分を手渡された形になる。すうど「本当にいいのか?」と尋ねるけれど、友影可威は何の事も無げに「いいよいいよ、使いきれねぇくらい増えたやつだし」と言って笑って見せた。
色んなメダルゲームを通してやって一時間後、結果として。友影可威は増え、二海稀理はかなり減った。天月博人のメダルは影もなく焼失した。
「ジブンはきっとギャンブルに手を出してはいけないことが分かりました」
「博人君は五回ゲームしたら、無くなってたもんね……僕、はなかなか楽しめたかな?」
「いやぁ!博人はボーナスタイムが来たから来たかって思ったんだが、外れたの初めて見たぞ!」
ガハハハッと友影可威に笑われながら、帰る雰囲気が少しずつ漂い始める。
「俺はメダル、戻してくるよ。稀理はどうするんだ?」
「え? あっ、返すよ!元々は可威君のだし」
「お前にあげたんだから返さなくて良いって。えっとだな、貯めるにしても、稀理がここにまた来るかわかんねぇし。クジ飴でも買うか?」
「メダルゲームのメダルって換金できたのかですか?」
ここはメダルゲームができるゲームフロアなのであって、ギャンブルフロアではないはずだと、ふと疑問に思って尋ねてみる。すると、友影可威は「金にはできねぇけど……まぁ菓子が一日に一人一個、メダル十枚と交換できるだけだぜ?とりあえず付いてきな」と答えてから、誘導する。大人しく付いていくと、メダルゲームフロア内のメダルでできるパチンコ台で、延々と台を打って居る年老いたおばあちゃんの下にまで案内された。
「三人、飴三個」
「クジ飴か好きな異能飴、レベル1、2、3、4、5」
「クジ飴で」
「30枚」
簡単なやり取りをして、友影可威は二海稀理のメダル30枚をおばあちゃんに手渡す。お婆ちゃんは受け取ったメダルを店に置かれて居るバケツのようなメダルの入れ物に1枚ずつ落として数を確かめ。ちょうど受け取ったとわかるとポケットに手を入れ三個のビニールに包まれた柿色と飴色が混ざった綺麗とは言い難い色の雨を取り出し、友影可威に渡した。
「ほらよ、飴。味は美味いか不味いか運次第だぜ? あーんっ。おっ甘い。当たりだ」
飴を手渡され、今のやり取りにほんの少し疑問を持ちながら「ジブンも貰っていいのですか?」と訪ねると。友影可威は飴を噛み砕いて飲み込み「一人一個だけど…稀理のメダルで買ったしな。どうする稀理?」と答を二海稀理に委ねた。
「あっなら、博人君も一緒に食べよ?」
返答は速かった。嬉しそうに笑ってるからアメ玉を口の中に放り込む二海稀理をみてから、「ありがとう」と言ってから口に飴玉を放り込んだ。 途端、口に広がったのは焦がしてできた炭のような苦み、そしてこれでもかという渋味であった。美味しい不味いの問題ではなく、直感的にこれは食べてはいけないものだと体が
だけれども、コレは友影可威から、二海稀理から頂いたものである。だが友として、人として、食い物を無駄にするなという本貧乏人の意地で、耐え抜いて呑み込んだ。
「うえぇ、渋い」
「ガハハ、ハズレだな!博人は……渋柿な挙句砂糖焦げてたか……大ハズレだな。まぁ、どんまい」
天月博人に渡された飴は、大ハズレだったようだ。
「ところで、あのお婆さんが言って居た異能飴とは?」
「あの婆さんは飴婆な。そんで異能飴か、あれは、多分誰も買ったことねぇから何ともいえねぇけど、多分一階に売ってる異能が色んな形で使える店で売ってる飴かな。食ったら超弱いけど異能がずっと宿るぞ、んで次食ったら上書きされる。制限時間があるけど効果が強いやつもあるらしいぜ?買ったことないけどな、これは婆さんにメダル百枚渡して聞けば説明してくれる。
飴婆から買うなら25万枚のメダルをバンクに入れて、自分のアカウントから飴婆のアカウントに振り込めば良いぞ。ってか万単位のメダルなんてそれ以外の方法くらいしか思いつかねぇ」
「へぇー、詳しいね可威君」
「まぁな、伊達にここに通ってねぇよ。このゲームフロアのことならドーンとノルマ○ト○号に乗ったつもりで任せろ!」
「なんかダメな気がするよそれ……なんかこう、日本人としてダメだと思う」
友影可威の異能飴の話を聞いて、天月博人は思う。もしかしたら井矢見懐木の体を補い、歩けるようにできるかもしれない、誤魔化しではあるけれど元気に動ける体をと。そう思ったのだ。
そんなわけで、翌日オルトレへ天月博人は一人でやってきた。思い立ったが吉日という言葉があるが友人との付き合いと残り時間を考えて機能は断念した。まず行うべきは異能飴、またはそれに通じるものの事前調査。餅は餅屋という言葉があるように、具体的なことを知りたいのなら、専門的な人に尋ねればいいわけで、その可能性が高いのはそれを管理して売りさばいている定員だろう。
「いらっしゃいませー」
尋ねる前に小さなエリアに構えられた小さな専門店の品ぞろえを見回す。巻物、お札、宝石、何か変な文字の描き方も簡易的に開設された五十音表みたいなやつ、本、銀製品でできたナイフ。十字架、数珠、装飾品等々、どれもこれも優に一桁万円は超しており、とても今の天月博人の手にはできない代物ばかりであった。
「店員さん、質問よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか? お値段は安くなりませんよ?」
可能性としてあったならどのみち手も足も出なかっただろうが喜ばしく思うけれど、それではない。天月博人が知りたいこと。
「生まれてこの方、歩けないほどに弱った体を。障害途切れることなく元気に動き回れるように補助できるものはありますか?」
うまい言い回しは思いつかなかった。だから直接、愚直なまでにまっすぐ問いかけた。するとどこかゆるい雰囲気を出していた女性店員の表情がまじめになる。
「色々ありますよ。きっとお客様がお求めになっているものもあります」
優しい声色で、答えてくれる。天月博人は伊矢見懐木に空の下を歩いてもらえるそんな可能性が芽生えたことに安堵を覚え、返答してもらったことにお礼を言おうとするが、その前に店員が言葉をつづけた。
「その子は、髪の毛が長かったりしますか?」
突然の問だった。天月博人はどうしてそんな問いをするのか疑問に思いながらも、色々察したような風体の店員にうなずいた。
「なら、お勧めのものがありますよ♪」
まじめだった声色はどこに行ったのか、途端に楽しそうな声を出して子供を誘導するように手招きをする。案内された場所は装飾品コーナー、そこにある一つを手に取って天月博人に見せつける。
「こちら、宝石を使った髪飾りなんてどうでしょう? 効果は注文いただければお客様のお望み通り、ネックレスや指輪よりもお安く、それでいて摂取してドーピングした結果ほんのわずかな後遺症が残ることもありません!どうですか? おとうさ、店長には子供っぽいといわれましたけれど、職人の卵が手がけたのもあってなかなかの代物だと思うんです!プロが作ったものではないのでそれを考えるとなおさらお安くなります!どうですか!? 私はお買い得だと思います!」
もしかしてこれ、店員さんが手がけたものなのかと思いながら、とりあえず勧められた髪飾りの標本と、同じ場所に置いてあった詳細に目を通す。値段は相も変わらず天月博人が手の出せるものではないが、他のと比較すると断然に安い。購入から受け取りまでの過程として、予約し、世類を書き、前払いし、しばらく日にちを開けて出来上がったものをここへ取りに行く。そんな感じである。
これなら、値段的にも比較的頼みやすい。
「有り難うございました、今度来るときは購入させていただきます」
「はい、承りましたー。またのご利用お持ちしておりまーす」
見たいものは見た。知りたいことは知った。後は手に入れるだけだ。天月博人はオルトレを後にして、家に帰る。そして決して自身の意思で踏み入った事の無い執務室んに前に立ち、息をのんで扉をたたき名を名乗る。
「博人君か? 儂の部屋に来るとは珍しいのう。よい、遠慮せず入るといい」
天月口成の許可を得て、扉を開いて中に入る。整頓された書類の塔が並び、壁際には本が敷き詰められている。ちらりと目に映った旅行パンフレットの山にアウトドア系の趣味を探す本が見えて(父上、御自重ください)と声に出したい思いを飲み込んで、書類をかたづけている天月口成に歩み寄る。
「何の用じゃ?」
「どうしてもほしいものがあります。それがあれば、病室のあの子を無理させず外へ連れ出せるかもしれない。だけれど不甲斐なくもジブンにはそれを手に入れるだけのお金はありません。あの日、あの時、ジブンはある種、買われた身、どうかこの身体にそれ以上の付加価値があると示す機会をください」
天月口成は黙って天月博人の要望を聞いた。聞いたうえで少し考え込んでから砕けた表情で博人を見た。
「要はお金がないから何とかしたいというわけじゃな?素っ頓狂な値段でもない限りは……そうじゃな、日本群島に散らばった与神の一族の手伝いをしてもらおうかの、儂が話を通しておく。だから博人君、君は少し肩の力を抜きなさい。子供が大人に物を頼む時、わざわざ覚悟をしないといけないわけではなかろう?」
「わかりました」
「返事が固いのう? まぁよい、週末には働けるように手配しておく。博人君も男じゃ、女にはいい格好見せたいものな。頑張れよ少年」
ワハハと笑う天月口成に応援され、天月博人は少し変な気持ちになりながら、お礼を言って部屋を出た。
「もし、歩けるようになるかもしれないって言ったらどうしますか?」
井矢見懐木にもしかしたらの可能性を訊ねる。すると井矢見懐木は太陽のように明るい笑みを作って答える。
「歩けるようになるんですか!? 素敵です!それはとても素敵なことです!でも、私は大丈夫です。私、外を歩いて、見て回りたいですけれど。外のことはヒロが教えてくれますし、今、こうやってヒロが来てくれるこの時間がとても楽しくて大好きですから。
だから、頑張りすぎなくていいんですよ?夢がかなわないのは寂しくて残念に思いますけれど、私、ヒロがいてくれるならそれでいいんです」
これから、天月博人が自身のために奮闘してくれる。そんなことを察してなのか井矢見懐木は天月博人に決して無理をしないでと抑制するような返答だった。だけれど、天月博人は「それでもきっと、ジブンは頑張るよ」と返し、言葉をつづけた。
「だって、なっちゃんが夢をかなえるその時を、ジブンがその隣で見たいから」
頑張る理由としては単純、井矢見懐木は博人にとってはもう、産みの父が行った。命を張るに足る身内のように、博人にとって大切な人になっていたからだ。
それが、出会ったあの時からの一目惚れだったのか、こういった時間の積み重ねによって育まれたものなのかは分からないけれど、なにはともあれ、井矢見懐木は博人の初恋相手なのだ。
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