幸運の子~生まれた時から異形に守護されております~

港瀬つかさ

第0話 たとえそれが、愚かでも


 暗闇が、怖かった。

 静寂が、怖かった。

 孤独が、怖かった。

 まるで世界に一人きりのような夜が、怖かった。



《アキラ》



 そんな時は決まって、《彼》が頭を撫でてくれた。

 大丈夫だと、言ってくれた。

 物心ついた頃から、いつも側にいてくれた。

 守ってくれた。

 だから一人じゃないのだと、怯えなくて良いのだと、思えるようになった。



《大丈夫ダ》



 ……本当に?

 問いかけた幼い僕に、それでも《彼》は力強く頷いた。

 真っ直ぐと僕を見て、それが何より正しいのだと言いたげに。



《必ズ、護る》



 まだ小さかった僕は、その言葉に安堵した。

 それなら大丈夫だと、信じた。

 信じてしまった。


 まだ、何も知らなかった頃の話だ。

 まだ、何もわかっていなかった頃の話だ。

 あの頃の僕は、何も知らなかった。

 いや、今も僕は、何も、知らない。




 それでも僕は、傍らの《彼》の手を、離せない。

 異形に縋る人の愚かさを知りながら、今日も僕は、《彼》に護られている。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る