第39話 光魔法
リアはまっすぐにメリルに突進していった。今度はメリルも手加減しないだろう。本気のメリルとの戦闘だ。一歩間違えれば、それは死につながる。
「あんたのその性根、叩きなおしてあげるわ!」
リアはメリルが攻撃範囲に入るとともに剣を薙ぎ払った。メリルはそれをバックステップで簡単に避けている。
「ですから、攻撃が素直すぎます。何度やっても、あなたでは私に……え?」
メリルの動きが急に止まった。理由はわからないが、メリルが作ったわずかな隙だ。これを見逃すわけにはいかない。
「そこだぁ!」
リアの突きがメリルを襲った。メリルは聖剣で何とかリアの突きの軌道をそらしたが、頬に一筋の傷痕が残った。メリルが受けた、初めての傷だ。
「何で、体が……!」
メリルの動きは極端に悪くなっていた。見ると、メリルの影に黒いナイフが刺さっている。トラマルの『影縫い』である。
「くっ! あの男……!」
チラリとトラマルとサイゾウの戦いを見てみるが、サイゾウが一方的におされているように見える。あれほどの戦闘を行いながら、さらにはリアの援護も行ったというのか。とんでもない行動力だった。
メリルは聖剣で影のナイフを振り払いたかったが、リアの猛攻がそれをさせない。一瞬でも気を抜けば、メリルといえどもリアの剣技の餌食となることだろう。それほどの攻撃だった。
「ちょ、調子に乗ってぇぇぇ!」
メリルは聖剣を薙ぎ払ったが、下半身をまともに使えない状態ではうまく剣を振るえない。結局は、情けないほど弱弱しい振りでリアを一時的に遠ざけるだけになってしまった。
「まだまだぁ!」
そんなメリルの攻撃に、リアが躊躇するはずがない。リアの剣がメリルの鎧を叩いた。まともに食らった一撃に、メリルの顔が歪む。
「まだまだまだぁ!」
さらに、リアは今までの鬱憤を晴らすかのように剣を上から下に振り下ろした。メリルは避けることも叶わないので、聖剣を横にしてその攻撃を防ぐ。ジーン、と痺れるほどの衝撃がメリルの腕に伝わった。
「まだまだまだまだぁ!」
リアは体を回転させ、その運動エネルギーを剣に乗せてメリルを攻撃した。今度は聖剣を縦にして防ごうとしたメリルだったが、慣れない体勢で防いだために聖剣が大きく弾かれてしまう。リアの攻撃は、またしても紺碧の鎧を強く叩いた。そしてついに、紺碧の鎧が音を立ててはじけ飛ぶ。
「まだまだまだまだま……」
「い、いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
メリルが叫ぶと同時に、衝撃波のようなものが体中から発せられた。リアは大きくはじけとび、回転しながらメリルとは距離をとった。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
メリルは息をきらせながら聖剣で自分の動きを封じていた影のナイフを斬った。影のナイフは霧のように霧散し、すっかり暗くなった闇夜に消えていった。これで、メリルを封じていたものがなくなった。
「まさか、私がリアさんみたいな人に魔法まで使うことになるなんて……。屈辱です……!」
「油断大敵ってことよ。まあ、私の力ってよりかは、トラマルの援護が一番の要因だと思うけどね」
リアの言葉に、メリルはトラマルとサイゾウの戦いを見た。『影絵』という術を使い、お互いが黒い虎と赤い蛇を召還している。だが、どちらが優勢かは一目見ただけでも明らかだった。
「ちっ。使えないやつですね」
「使えなくしたのは、あなたのお菓子のせいよ、メリル。サイゾウは、確かに嫌なやつだったけど、信念を持って生きていた。それを、あなたのお菓子が奪ったのよ」
「信念? それが何だっていうのですか! たったそれだけで、あれだけ弱くなるのなら、元からたいした力がなかったってことです。〈影の一族〉も、所詮はその程度ってことですね」
「〈影の一族〉かどうかは関係ないわよ。信念があるかどうか。ただそれだけで、人は強くなれる。それが、あんたと私たちの違いよ!」
リアが錆びた剣を握り締め、まだまだ戦う意思を見せた。
「信念が何ですか! 私だって、『勇者』としての矜持があります! あなたにはない、プライドがぁ!」
メリルは右手を前に出すと、その手のひらから光の弾を撃ち出した。光弾はリアの頬をかすめ、はるか遠くの大地に着弾する。そして、巨大な光の柱を出現させるように爆発した。
「なっ!」
リアは思わず後ろを振り返ってその光弾の威力を確認した。あそこに町があれば、軽く吹き飛びそうなほどの威力だ。人一人が扱える魔法の威力を超えている。
「な、何よ、あれ!」
「『勇者』だけが使える、光魔法です。私は、真の『勇者』になるんですから、これくらいは当然ですよ」
メリルはニヤリと笑った。確かに『勇者』は光魔法が使えたという記述は文献に残っている。だからと言って、本当に『勇者』候補のメリルが光魔法を使えるとは誰も思わないだろう。
「ひ、光魔法って、あんなにも強力な魔法だったの!?」
「かなり昔の魔法ですからね。リアさんが知らないのも不思議ではありません。ですが、私には使える。これだけでも、私が真の『勇者』にふさわしいという証ではありませんか!」
メリルは演説でもするかのように高々に宣言した。『勇者』という存在が、メリルの中で肥大化していることがこれだけでもわかった。
「もう、手加減はしません。覚悟はいいですね、リアさん?」
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