第22話 ゴーカート

 メリーゴーランドで酔ったトラマルのために、次はゴーカートのアトラクションへと向かった。もちろん、カートはお菓子で作られているし、遊園地のアトラクションなのでそこまで速度は出ないが、それでも速さが出るアトラクションはトラマルにとって癒しになるらしい。



「うむ。実に爽快な気分だ」


「あんた、結構特殊体質だからね? 普通、速い乗り物に乗ったほうが気持ち悪くなるからね?」



 リアはトラマルと並走しながらカートを走らせる。ゴーカートにいいながら、ビュレットの町のカートはなかなか速度が出てリアとしてはちょっと怖かった。



「でも、このままただぐるぐるコースを回っているのもつまらないわねー。何か、面白いことはないかしら……」


「ほう。なら、少し競争するか?」


「へー。あんたから勝負の申し込みとは珍しいじゃない。いいわよ。受けてたつわ」


「よし。じゃあ、次の一周、どちらが早くゴールするか勝負だぞ」


「望むところよ」



 二人はゴールラインが引いてあるところに並び、同時にスタートした。勝負事となると熱くなるリアは、結構なスピードが出ているのに恐怖心を忘れているようだった。



「くっ。なかなかやるわね。このままだと、私が不利だわ」


「俺に勝とうなんて、百年早いんだよ」



 勝負はトラマルのリードで後半戦に入った。わずかな差だが、このままではリアの負けは確実だ。



(何とか、何とかしないと……)



 そのとき、リアの頭の中に名案が浮かんだ。



「そうだ、これしかない!」


「……ん?」



 不穏な空気を感じ、トラマルが少し身構える。



「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」



 次の瞬間、リアのカートはトラマルのカートに側面から激突した。



「ぬわっ!」



 危うく、コースアウトしそうになってしまった。いくら何でも、これはやりすぎだ。



「お前、俺を殺す気か!」


「勝負はいつも命がけなのよ! 私と勝負するのなら、命を賭けなさい、命を!」



 何という暴論だろう。ここまで言われてしまえば、トラマルも黙ってはいられない。



「お前がその気なら、こっちだってやってやろうじゃねえか!」



 今度はトラマルがリアのカートに側面からぶつかった。リアのカートが危うく転倒しそうになる。



「やったわね!」


「先にやったのはそっちだろう!」


「うぐぐぐぐぐぐ!」


「うぐぐぐぐぐぐ!」



 二人はカートの上でにらみ合い、そして距離をとった。



「食らえ、馬鹿女!」


「そのままコースアウトしなさい、トラマル!」



 トラマルとリアのカートはお互いぶつかりあいながらコースを進んだ。何度もぶつかり合うので、お菓子の外装が次第にはがれていく。あとで怒られないか、などの不安はヒートアップしている二人には微塵も思い浮かばなかった。


 そして、そのまま最後のカーブに差し掛かる。だが、ここでトラブルが起こった。



「な、何!? 制御不能だと!?」


「こっちも、ハンドルが利かない!?」



 トラマルとリアは互いにハンドルを左右に回してみるのだが、タイヤはピクリとも動かない。そして、そのまま二人仲良くコースアウトして……。



「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 ドカーン、という大きな音を立てて二台のカートが壁にぶつかって大破した。壁にぶつかる寸前、トラマルが脱出してリアを抱きかかえながら安全なところまで逃げたので助かったが、危なかったことには変わりがない。



「あ、危なかった……」


「あ、危なかった……」



 その後、ウサギと亀のコスプレをしたビュレットの町の人から怒られ、トラマルとリアはひたすら頭を下げることになったという。

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