第21話 メリーゴーランド
次に二人が向かったアトラクションは、メリーゴーランドだった。円形の大きな台座に、白馬や馬車が上から繋がれている。二人は、仲良く並んで白馬に跨った。そこに、ビュレットの町の住人である、ウサギのコスプレをした人が近づいてきた。
「いけません、いけません。お二方、あなたたちはカップルなのですから、一つの白馬に二人で乗ってください」
「は!?」
「は!?」
あまりにも衝撃的な要求に、トラマルとリアは同時に声を出してしまった。
「ふ、ふ、ふ、二人で一つの白馬にって、そんなの、トラマルと密着しちゃうじゃない! ダメよ! ダメ、ダメ!」
「ああ、俺も勘弁してもらいたいな」
「そう言われましても、これはルールですから」
「相変わらず、この町のルールはよくわからないぞ」
トラマルはため息をついて少々考え込んだ。
「別に、これに乗らなくても、別の乗り物に乗ればスタンプを十個集められるんじゃないか? もしくは、すでに乗ったアトラクションにもう一度乗るとか」
「あ、この町にあるアトラクションは全部で十個ですよ? あと、一度乗ったアトラクションではスタンプはもらえません」
「強制かよ!」
「強制かよ!」
結局、二人は渋々といった様子で一つの白馬に二人で乗ることになった。トラマルが前で、後ろにリアが抱きつくようにつかまる。
「おい。もっと離れろよ」
「これ以上離れたら、私が落ちちゃうでしょう!?」
「落ちろ」
「鬼か!」
トラマルとリアがそんな言い争いをしていると、急に軽快な音楽が鳴り出した。そして、その音楽に合わせてメリーゴーランドが回りだす。
「あ、動き出した」
「意外とゆっくりだな」
「あんたは速いものが好きなのね」
「何ごとも手早く済ませたいからな」
気づいているかどうかわからないが、二人は以前よりも会話がスムーズになってきている。これも、まがりなりに恋人になっているおかげだろうか。
「……ねえ」
「なんだよ」
リアがむずがゆい空気に我慢できなくなり、トラマルに話しかけた。トラマルも、その空気を察しているのか、リアとまともに視線を合わせようとしていないように感じる。
「これ、まるで本物の恋人みたいじゃない?」
「……」
トラマルは何も言わない。リアが抱きついているその背中が、妙に大きく感じられた。
「……ねえ」
「……」
もう一度呼びかけてみたが、トラマルの返事はなかった。これには、リアはちょっと膨れ顔になって抗議してみた。
「ねえってば」
リアは無理やりトラマルをこちらに向けてみた。
オロロロロロロロ。と、トラマルは女性に見せてはいけない胃の中のものをその場に吐き出していた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! あ、あんた、何てものを出しているのよ! ちょっとかかっちゃったじゃないの!」
「き、気持ち悪い……」
「な、何で!? こんなゆっくり動いている乗り物なのに、何で気持ち悪くなるの!?」
「このゆっくりさが、逆に気持ち悪くさせているんだよ……。もっと、もっと速くしてくれ……」
「どんだけスピード狂なのよ……」
この男とはつくづく恋人にはなれない。リアは本気でそう思ったのだった。
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