第9話 昼寝

「よくよく考えれば、荷物を奪われたんだからあいつがあの宿の戻ってくる保証はなかったのよね。だから、あいつを追うためにも、この選択は仕方がない。うん。仕方がないのよ」



 リアは自分にも言い訳をして、昨夜の侵入者のことを調べた。調べてみると、すぐに犯人の目星はついた。近頃シックルの町の周辺で活動しているシャドウ・スコーピオンという盗賊団がいるらしい。リアの勘が、そのシャドウ・スコーピオンが怪しいと言っていた。


 勘といっても、誰でも思いつくような勘だった。なぜなら、シャドウ・スコーピオンの特徴の一つに、メンバーの誰もが特徴的な仮面をつけて活動するというのがあった。


 昨夜にリアが襲われたとき、侵入者は仮面をつけていた。そこから、犯人はシャドウ・スコーピオンだと思ったのである。



「シャドウ・スコーピオン。待ってなさいよぉ。絶対に捕まえてあげるんだからね!」



 シャドウ・スコーピオンはシックルと隣町であるビュレットを結ぶラクラク峠に拠点を構えていた。ラクラク峠自体は越えるのに難しい場所ではないのだが、夜になると夜盗、つまりシャドウ・スコーピオンが出現するので、夜間の人通りは皆無に等しかった。おそらく、ラクラク峠で強盗が出来なくなってきたので、シックルの町で盗みを働くようになったのだろう。そのくらいの想像は、リアにも出来た。



(そういえば、トラマルは昨日随分日が高いうちから宿をとったわよね。もしかして、ラクラク峠にシャドウ・スコーピオンがでることを知っていたから早めに宿をとったのかしら?)



 そんなことを考えつつ、リアはラクラク峠の頂上にたどり着いた。ここからなら、シックルの町も隣町であるビュレットの町もよく見えた。確かに、この二つの町を行き来する人々を狙うにはいい場所だろう。



「さて、ここからどうしよう」



 リアは何も考えていなかった。とにかく、その場所に行ってみれば何とかなるだろう。そんな気持ちでラクラク峠まで来たのだ。


 だが、実際に来てみてわかったことは、何もない、ということだった。本当に何もなかった。あるのは、踏み固められた道と、多少の草木だけだった。殺風景という言葉がよく似合う。



「……え? こんなところに、シャドウ・スコーピオンがいるの?」



 身を隠すものも何もない。それなのに、夜になれば夜盗が出現する危険な場所になるという。リアは首を傾げるばかりだった。



「う~ん。どうしよう。トラマルもいないし、ちょっと辺りを調べてみようかしら」



 だが、調べるといっても調べるものがない。リアは辺りを少し見渡したら、道を外れ、柔らかい草の上にゴロンと横になってしまった。横になってみると、あれだけよく寝たのにまた眠気が襲ってくる。



「ふあ~。少し寝ようかな」



 リアのまぶたが、ゆっくりと下りていった。

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