『勇者』と〈影の一族〉

前田薫八

プロローグ

 あるところに、『勇者』がいた。その『勇者』は、王様の命令で数々の異国の地へと突き進み、敵を倒していった。『勇者』の強さはすさまじく、一人で百万の敵を倒したとも伝えられている。


 『勇者』のいる王国は、次第に勢力を拡大していき、この大陸で一番の王国となった。しかし、それでも王様は領土拡大の夢を捨てなかった。その領土拡大の夢の先頭に立っているのは、いつも例の『勇者』だった。


 あるとき、『勇者』は出会った。それは戦場で、敵である人物だった。その人物は、敵であるはずの『勇者』に親しみを感じ、戦場でありながら仲良く話すまでになったのだ。


 そんな『勇者』とその敵も、やはり戦場では殺し合いをしなければならなかった。いつしか殺し合いに疲れてしまった『勇者』は、こう言った。



「もう、『勇者』なんてやめたい……」



 『勇者』は剣を捨てた。敵はそんな『勇者』の姿を見て、こう言った。



「今度は、誰かから奪う戦いをするのではなく、守る戦いをすればいい。誰か一人でも守ることが出来れば、その誰かにとって、あなたは本当の『勇者』になれるはずだから」



 『勇者』はその言葉にはっとなった。『勇者』は再び剣を持ち、戦った。しかし、今度の戦いは奪う戦いではなかった。守るための戦い。それが、『勇者』にとって真の戦いだった。

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