第三 ムザッワーフの部

字の重なる名詞の編(v2-0289~0300)

v2-0289


بسم الله الرحمن الرحيم


二字の語彙の篇


تت tat タト。全テュルク人の観念では、主にペルシャ人のことを指す。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  تتغ کوزار تکانك تبرا

  tatigh közrä tikänig tüprä

 タトを打つなら眼を潰せ、荊の棘を切るなら根を絶て。タトはトフシーとヤグマー人の心中では非ムスリムの回鶻人を指す。これは、私が彼らの故郷で聞いたことである。彼らは「تت تؤغاج tat tavghach」と言う。これは「回鶻人と秦人」を指す。上述の諺は正に「回鶻人と秦人」について言っている。何故ならば、彼らは信義を守らないからである。これ故に、荊の棘を切るのに根を絶つが如く、回鶻人を倒すのに目を潰すのである。別の諺ではこの様に言われる。

  تتسز ترك بلماس بشسز برك بلماس

  tatsiz türk bolmas bashsiz börk bolmas

 タト無しではテュルクが成らず、頭無しでは帽子が成らない。その意味は、頭が無ければ帽子が成り立たない様に、ペルシャ人無しではテュルク人は成り立たないのである。


v2-0290

تت tat 錆び。刀や其れに類似の物に浮かんだ錆び。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  قلج تتقا ایش ینجیر ار تتقسا ات

  qilich tatiqsa ish yunchir är tatiqsä ät tunchir

 刀が錆びれば、事が悪くなった、人がタトに変われば、心が悪くなった。刀が錆で蝕まれれば士気は落ちる。テュルク人がペルシャ人の習俗に染まれば、自らが蝕まれる。この諺は、不撓不屈の勇者に成りたければ、物次第では其れに染まってしまうことを戒めている。

حج حج hoch hoch 山羊を追い立てる時に使う掛け声。

حج حج häch häch 競馬で疾走させる時、気持ちを高める為の掛け声。本来は「اج اج äch äch」であったが、「ا」を「ه」に変えた。これは羊の群れを走らせる時にアラブ人が言う所の「هجهجت بالغنم」と同じである。

شش shish 箸。麺食の時、即ち湯麺を食べる時の食器。

قق qaq 干し瓜。「ارك ققي ärük qaqi」干し杏。他の干物にも使う。


v2-0291

قق qaq 「قق ات qaq ät」干し肉、陰干しした肉。干したあらゆる物を此の様に言う。

قق qaq 干上がった湖沼。この言葉は詩歌ではこの様に歌われる。

  ققلر قمغ کلدي

  qaqlar qamugh kölärdi

  تغلر بشي الردي

  taghlar bashi ilärdi

  اژن تني یلردي

  azun tini yilirdi

  توتو ججك جرکشور

  tütü chächäk chrkäshür

 春を描いて此の様に言う。水嵩が増し、荒涼とした盆地は湖沼に変わった。山の峰は朦朧として見え、大地は蘇り、花々が列を為して咲き乱れた。


v2-0292

کك käk 仇、仇恨、怨恨。「اجلك ککلك کشي öchlüg käklig kishi」仇を持つ人、恨まれている人。

کك käk 困難、艱難。「کك کردي ار käk kördi är」苦しみを受けた人。

کك kök 鞍の小さな板(鞍骨?或いは居木)。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  ار سوزي ییر اذر ککي اوج

  är sözi bir ädhär köki üch

 男の言葉は一つ、鞍の居木は三つ。男たるものは一言で済まし、多言は無用である。鞍の板は三枚であり、鋲止めが多すぎれば鞍橋は悪くなり、鋲止めが三個より少なく、たったの二個であれば、鞍橋は人の重さに耐えられない。この諺は諾言を守るべきことを戒めている。

کك kök 祖先、根っ子。「ککنك کم köküng kim」お前の先つ祖は誰?即ち、どの父系の出自か?どの部族の出身かを尋ねている。オグズ語、キフチャーク語。


二字の語彙の篇は完


v2-0293


三字の語彙の章


فعل fääl 型で間の字に各種動符を帯びた語彙の章


قتت qatut 引き入れる、盛り込む。「قتتلغ اق qatutlugh oq」毒矢、鏃に毒薬を塗った矢。

قتت qatut 干し瓜。「ارمت قتتي armut qatuti」干し梨。バルスハン語。

قتت qatut 糊。靴職人が使う糊。

کتت kätüt 「کتت کشي kätüt kishi」顔色が青白い人。

قجج qachach カチャク、秦で織られた絹織物。その正確な書き方は「قجاج」である。婢女の名前にも用いる。

قجاج qachach 汚れ、垢。「تون قجاج بلدي ton qachach boldi」服が汚れた。元の言葉は「ققاج qaqach」であり、「ج」の字と「ق」の位置が交替した。

بقق boqaq 鳥の砂袋。

بقق boquq 蕾。「ججك بققلندي chächäk boquqlandi」花が蕾を結んだ。これは花が開く前の状態である。この言葉は詩歌ではこの様に歌われる。

  تکما ججك اکلدي

  tägmä chächäk ügüldi

  بققلنب بکلدي

  boquqlanip büküldi

  تکسن تکن تکلدي

  tügsin tügün tügldi

  یرلب ینا یر کشور

  yazlip yana yörgäshür

 春を描写して此の様に言う。様々な花が集まり、花は蕾を結び咲くのを待つ、蕾はまるで釦の様であり、咲き開いた後、それぞれが絡み合うように一つになった。


v2-0295

بقق boquq 甲状腺腫、首の病、咽喉の両側の皮肉の間に成長する腫物。フェルガナとシックニ・シャハルで、この病を患う人がいる。甲状腺腫は遺伝性である。ある人は甲状腺腫が、自分の胸や脚が見えなくなるほど大きくなってしまう。

 私は此の種の由来を尋ねた所、此の様な回答を得た。「我々の先祖は大音声が通る異教徒であった。神の使命を為す預言者の教友達が作戦を実施しようとした時、彼らの大声が天を衝き、絶えず襲い掛かった。彼らの此の様な喊声の為にムスリムたちは恐慌状態に陥って敗退してしまった。この知らせは神の恩寵を受けたるウマルの所に届いた。ウマルは彼らを呪った。その為、彼らの喉に此の様な病が発症する様になった。そして代々遺伝して来た。」今に至る迄、彼らの中には大声で話せる者は、ほとんどいない。

تقق taquq 鶏。トゥルクメン語。

سقق saqaq 下顎。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  سقق اخشار سقال بجار

  saqaq pichar saqal ohshar

 下顎を割り、顎鬚を決め込む。これはアラブ人の言う所の句「یسر حسوافي ارتغاء」と同じである。

سقق soqaq 羚羊。


v2-0296

سقق soqaq ソカック。オグズ人は揶揄ってペルシャ人を此の様に言う。「بو سقق نا تیر bu soqaq nä tär」この山羊公(ペルシャの翁)は何を言っている?

تکك tügäk こま結び、木の輪。縄を結んで家畜に載せる貨物を緊く縛る木の輪。

جکك chäkük おもり、鉄錘。オグズ語。

جکك chäkik 点、句点。

جکك chäkik 仔牛、未だ小さい仔牛。

جکك chäkik 崖に棲み、雀に好く似て、鮮やかな模様のある鳥。

ککك käkük ホトトギス、杜鵑。とある鳥、その頭骨は呪いを念じたり、魔法を行うのに使われる。

یتت yätüt 幇助、援助。軍隊を援ける力。この言葉は元々「یتت سج yätüt sach 後で伸びた髪」である。


本章のミサッラル


ککاکن kökägün 虻。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  اکي بغرا اکاشور اترا ککاکون ینجلور

  ikki bughra ikäshür otra kökägün yanchilur

 二頭の駱駝が争い、その間の虻は潰れ死ぬ。この諺は、二人のベグが相争えば、その間に居る弱小の者は滅びることを比喩している。


三字の語彙の篇は完


v2-0297


四字の語彙の章


فلال fä'lal 型で各動符を帯びた語彙の章


تلغاغ tolghagh 耳環、耳に付けて飾る環。「ینجو تلغاغ yinchü tolghagh」真珠の耳環。

تلغاغ tolghagh 痛み、苦痛。「امکاك تلغاغ ämgäk tolghagh」とも言う。この言葉の原義は「腹が捻じれる様に痛い」である。「انك قرني تلغاغ aning qarni tolghagh」彼の腹は捻じれる様に痛い、即ち、彼は腹痛を起こした。

تلغاغ talghagh 吹雪。人を埋め尽すかの様な、甚だしきは人の命を奪い去るような激しい吹雪。「تاغ ازا تلغاغ بلدي tagh üzä talghagh boldi」山の上に吹雪が起きた。

قرغاق qarghaq 呪う、罵る。「تنکري قرغاغنکا النما tängri qarghaghinga ilinmä」神を呪う勿れ。

قرغان qirghagh 辺縁、衣服の縁。

قرغاغ qirghagh 叱責、咎める。伯克や可汗による目下に対する叱責。「خان اني قرغادي han ani qirghadi」可汗は彼を咎めた。彼に対して怒り出した。回鶻語では、神の使いのことを「یلافج yalafach」と言い、可汗の使者のことを「یلافر yalafar」と言って区別するのと同じである。神が僕民を罵る事と僕民が其の目下を咎める事、或いは怒りに任せる事と区別する為に、「ق」の字の前一つの意味に開口符を付け、その後一つの意味に斉歯符を付ける。


v2-0298

تلقق tulquq 膨張した皮袋。

یرکك yörgäk 外套、マント。「کوك یرکك بلدي kök yörgäk boldi」蒼空はマントで覆われた、即ち天空は黒雲で覆われた。

بزکاك bäzräk 瘧、マラリア、瘧の発作。

ترکاك türgäk 風呂敷。

تزکاك täzgäk 逃げがち、避けがち。「تزکاك ار täzgäk är」逃げがちな人、労働や其の他の事情から逃げる人。

سرکاك särgäk ふらふらする、ぐらぐらする、ふら付く。「اسرك سرککلندي äsrük säräkländi」酔っ払いはふら付いた。

کرکك kärük 羊の胃やセンマイと繋がっている「肺管口」と言われるもの。

کسکك käsgük 首輪、犬の首に巻く首輪。

کسکك kösgük 案山子。邪を避けるために菜園や葡萄園に置かれる案山子。この言葉は諺ではこの様に言われる。

  الین ارسلان تتز کوجون کسکك تتماس

  alin arslan tutar küchün kösgük tutmas

 謀り事で獅子を捕まるが、力では案山子も縛れない。

کرکاك kürgäk 鍬。櫓並びに各種鍬。


v2-0299

کفکاك käfgäk 舌が回らない。舌足らずな話をする人。


فعلعل fääl'äl 型の五字の語彙の章


سمرکوك sämürgük ヒバリ。バラーサーグーン語。この言葉は詩歌ではこの様に歌われる。

  بج بج اتر سمرکوك

  buch buch örär sämürgük

  بغزي اجون منکلنور

  boghzi üchün mänglänür

 鳴き声が人を引き付ける鳥は砂袋の為に餌を得る。

کذزکاك kidhizgäk 「کذزکااك قاغون kidhizgäk qaghun」水分が抜けたメロン。

کشرکاك kishirgäk 「کشرکاك ار kishirgäk är」人を避ける人(ケチな人)。家に客が来ても心中は嬉しからず、彼の眼には家も狭く見える人。


v2-0300


本章中の鼻音の語彙


جنکل chängäl 卑しい、しょぼい。「جنکل ار chängäl är」賤しい人、悪い人。

جنکك chöngäk 木桶。チギル語。

ترنکك täengäk 滲み出た水、清水。この言葉はアラブ語の「ترنقق 沈殿した」であり、其の「ق」の字と「ك」が入れ替わった。この言葉はアラブ語と同じである。


神に感謝す、字の重なる名詞の編は既に完。

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