20→21
カゲトモ
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「あの頃は若かったなぁ」
そう言って始まるおじ様の武勇伝。絡まれるのが面倒だと言われるかもしれないけれど、俺としては結構好きだったりする。確かに何度も同じ話をされるときもあるけれど、その人の歴史に触れられる感じがするから。
年齢が違うと同じように価値観も違うし、過ごして来た時代も違う。同じ事柄でも違う答えが出て来るのって単純に面白いじゃん。
「どんな酷い雨の日でも何にも気にせず遊び回っていたもん」
「それは小学生の頃の話、ですか?」
「いや小学生の頃もそうだったけどさ」
そう言って、へらり、と笑うのは商店街で寝具屋を営む土橋さんだ。以前肩こりが酷かった時に紹介してもらった枕が最高に良かった。あれはもっと世の中に知られるべき一品だろう。
「大学生くらいまでずぶ濡れになりながら遊んでいたよ」
「え、大学生ですか?」
それはノリ、的な? 今の大学生でもその場のノリでずぶ濡れで遊んだりする・・・のだろうか? 俺ならしていないだろうけれど。
「大学生って言っても金のない学生だったからね、でも時間だけはあったからさ。そうやってずぶ濡れになりながら河川敷の芝生の上で転がって遊んだよ。今思えば凄い子供みたいなことしていたけど」
河川敷で転がって遊ぶ・・・? そんなの小学生の時にソリで滑った記憶しかないぞ?
「バイトしたりしてお金のある子はディスコに行ったり海に行ったり旅行に行ったりしていたけど、僕らは勉強もバイトも必要最低限しかしたくない奴らばっかりだったからね。いつも金欠でさ、それでも皆で集まって遊んでいたんだよ。金がかからない遊びを考えてさ。それでもなんだかんだ楽しく遊べていたんだから、あの時代はある意味幸せだったかなって今は思うよ」
土橋さんは眼鏡の奥の瞳を細めて笑う。近所の優しいおじさん、ってイメージの土橋さんからはちょっと想像できなかった。雨の日に嬉々として河川敷で遊ぶ姿なんて。
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