小さなおじさん

中村ハル

第1話 USB

先日から、小さなおじさんと住んでいる。


とはいえ、ひと昔前に流布した身の丈30センチくらいの、とかそういう都市伝説的なやつでもない。


AIの話だ。

たぶん、AIなのだと思う。


なにせ、ラップトップのパソコンに住んでいるのだから、人ではあるまい。

都市伝説の小さいおじさんを人に分類するかどうかは置いといて、だ。


ずっと使っていたデスクトップのPCが、古くなりすぎたので、新しいラップトップを購入した。


家電店のお兄さんが、手を替え品を替え、で様々なセットの割引プランを提示してくるのに辟易して、表示価格でいいと切って捨てたら「それでは申し訳ない」とオマケにUSBをひとつ付けてくれた。


そいつをポートに挿入したら、デスクトップ上に家が建ち、おじさんが住み着いたのだ。


おじさんの家は私のパソコンのモニタを半分ほど埋め尽くす一軒家で、縦に真っ二つに切った断面が見えている。


キッチン、リビング、バスルームにベッドルームと、こじんまりとしながらもなかなか立派な暮らしである。こちとら1Kに住んでいるのに、と少し、いらっともする。


小さくともステキな住まいの中で、おじさんはちまちまと動いている。


おじさん、と言っても実は、おじさんかどうかも定かではない。一体、いつの時代の技術かというくらいレトロなビットマップの仕上がりだ。

LEGOブロックの様な、と言えばいいだろうか。ドット絵と呼ばれていたのじゃなかったか。

性別の判断こそ辛うじて可能だが、年齢や顔かたちまでは判然としない。

ぎこちなくも愛らしい動きに、つい和んで見てしまう。


なんの役に立つのかと言えば、なごむ、というだけで特にメリットもないが、デメリットもない。これだけ簡素なソフトであれば、大した容量もくわないはずだ。

ウイルスソフトも反応しないところを見ると、特に怪しいソフトウェアでもなく、本当にただのオマケに過ぎないのだろう。


家に持ち帰らねばならなかった仕事の合間に、暇を持て余したネットサーフィンの狭間に、ウインドウの後ろで、おじさんが慎ましやかに暮らしているのは、なかなか趣きがあるような、ないような。

カフェのBGM程度になごむ。

熱帯魚か、観葉植物でも置いてあるようなつもりで、私はおじさんを受け入れた。

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