あのとき見たユメ
@yumeno-20
第1話
暗闇の中にいて、なにも見えなかった。
なにも聞こえなかった。
気がついたらここに居て、浮かんでいた。
(なぜ、ここに居るんだろう…)
そう考えだしたとき、どこからか現れた
白い光に包まれた。
光だと思っていたものはもやだった。
視界の全てがぼやけだす。
すると、目の前に人物の顔が浮かび上がってきた。もやのせいで誰かはわからない。
浩介はその人物を見てなぜか懐かしい気持ちに浸った。
「夢か…」
目覚めた浩介は
部屋の真っ白な天井を見上げながらそう呟いた。
(あの人はだれだったんだろう
すごく懐かしい感じだった…
もう少し夢の中にいられたなら、
正体がわかったんじゃないか…)
ボーッとそんなことを考えてから
窓際においてある目覚ましを見ると。
7時20分
普段は7時には起きる浩介
驚くほどでもないが、会社までの
通勤時間などを
考えると、結構な痛手だった。
急いでシャワーを浴び、身仕度を整え、トーストをかじると、家を出る。
その間もあの夢の中の人物について
考えていた。
浩介は2年前から今のマンションに住んでいる。
親が亡くなったのをきっかけにこの町に戻ってきたが、それまでは東京の会社に勤めていた。もっとも生まれはこの町で大学進学をきっかけに東京で一人暮らしをし、そのまま
東京の会社に就職したのだった。
親から近くに戻ってきてほしいと言われたとき、浩介は迷わなかった。
仕事も順調にいっていたし、当時27歳とまだまだ若かったが、東京のあくせくした空気に
馴染めなかった。
当時の上司からも「これでいいのか?」と訊かれたが、浩介は「親のそばに居てやりたいので」と答えた。
会社までは、二駅ほど電車に揺られなければ
ならない。
駅までは自転車を使っている。
途中には「藤原橋」という赤い大きな橋があり、ここは
市発行のポストカードの絵柄にもなっている町の名所の一つでもある。
浩介が橋を渡っていると歩道に「占います」と赤い字で書かれた大きな看板を出している
占い師を見つけた。いかにも占い師らしく
水晶玉まで置いている。
普段あまり占いなど興味がない浩介だが、
あの夢のことが気になり、
「帰りに寄ってみるか」
と呟きながら前を通り過ぎた。
駅の駐輪場に自転車を停め、
改札を通って駅の中へ入る。
時間を確認すると
8時15分
やはりいつもよりも遅く駅に着いた。
駅についてから会社までは
15分程度なので、遅刻の心配はないが、
この時間帯は近辺の中学や高校生の
通学ラッシュの時間帯と重なっている。
これを回避したいが為に
いつも早めに出発しているのだ。
少し憂鬱になりながらホームへ降りると
ちょうど良いタイミングで電車が到着している。
これ以上遅くなるとさすがにまずいと
ごった返している学生達をかき分けて
電車に乗り込む。
その瞬間、となりの車両に乗り込もうとしている女子高生らしき女性が目に入った…
ショートヘアの黒髪に赤いカチューシャをつけ、紺のブレザーを着た女性
(なんとなく、今風の服装ではないような…)
浩介は、電車に揺られながら
この女性のこと、
そして朝みた夢のことを
ずっと気にしていた…
午後17時半
予定よりかなり早く今日の分の仕事が
終わり、浩介が出社の準備を始めていると、
同僚の女性
「浩介くんもう帰るの?」
浩介はカバンに荷物を詰めながら返す。
「ん?あぁそうなんだ
今日は増山さんのところと商談だったんだけど、明日に変更になったんだ。おかげで明日は帰れないかもな」
浩介がそう言うと、景子は
「じゃあ今日は私が帰れないから
おアイコね」
なんでも、同僚が熱を出して早めに帰ったぶんの仕事を被っているらしい。
(いまどき珍しいくらいの優しさだなぁ)
浩介は、景子に缶コーヒーを差し入れると
帰路へと向かった。
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