【番外編】夏 「ちょっと流れ星でも観に行きませんか?」(1)さあ、いよいよ出発や

 『京都、バイクちょい乗り草子』の番外編です。「ちょい乗り」ではなく、かなりの距離を走るので【番外編】として少し物語風にしてみました。

 京都から、三重県の青山高原まで「ペルセウス座流星群」を観に行くお話です……。



『立秋を過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい夏の夜は青山高原がいい。ちょっと遠出をして流れ星でも見に行こか……』



 8月12日の日曜日の夕方。先週の金曜日に盆休み前の仕事を締めた僕は京阪出町柳駅前(京都市左京区)でホンダのNC750Xに跨って栗原さんを待ってる。


 暫くすると、


「北さん!」


 と、少し恥ずかしそうな声と共に駅出口の階段から栗原さんの姿が見えてくる。僕は手を上げてその声に応えた。


「ごめんなさい。遅なってしもて」


 長い髪を一括りにし、ジーンズにピンク色のチェックのシャツを着てデニム地のリュックを背負ってる。シャツのボタンを2つも外し、チェックの模様が極端なまでに湾曲してることから、相当なお胸をお持ちの様子が分かってしまう。なんと言うても少し丸みががった薄ピンクのフレームのメガネを掛けてるところがめっちゃええわ! そう、栗原さんはメガネっ娘なのだ。


「いえいえ、こちらこそ。ごめんなぁ無理言うて」


 あるプロジェクトを一人で担当をしてた僕に、助手として手伝ってくれることになった僕と同い年の臨時職の栗原さん。3ヶ月も一緒に仕事をしてるとお互いの気心も知れてきて、たまに飲みに行ったり食事をしたりして親交を重ねてきた。

 僕としてはもっともっと親密になりたいと思てるんやけど、果たして今日のツーリングでどんだけ距離が縮められるやろか?


「そんな事ないよ。私も楽しみにしてきたんですよ」

「ほんまにぃ。そう言うてくれると嬉しいわ」


 栗原さんは美人って言うよりは少しぽっちゃりとした、どちらかと言うと可愛らしいタイプの人。喋り方も表情もおっとりしてて、「仕事できるかなぁ」と心配してたけど、なかなかガッツはあるしテキパキと仕事をこなす。

 一度仕事が遅くなり終電が終わってしもたんで家まで送って行ってびっくりしたけど、桃山の高台にある大きな「お屋敷」に住んでるまさにお嬢様。

 でも活動的で趣味は野外活動らしい。勿論、お華やお茶にピアノもやるけど山登りやキャンプ等も時々行ってる活発な面もあり、それが「ギャップ萌え」になってより一層魅力的や。


「だから北さん、今日は宜しくお願いします」

「こ、こちらこそ……。ほんでもその『北さん』ってのは、なんか仕事してるみたいやし、ぎこちないなぁ」

「ほんならなんて言うたらええのん」

「うーん。和彦やから、『かず』でええわ」

「和さんね」

「うーん……」

「じゃ和くんは?」

「まぁそれでええわ」

「そしたら私の事も栗原やのうて、『ひとみ』って呼んで下さいよー」

「ええ……、ひとみ……さん」

「もうー、『ひとみ』でいいのよ!」

「ほんなら、ひとみぃ……。そろそろ行こかぁ~」

「はい、和さん」


 なんか僕の方がぎこちのうなってしもた。おっとりしてる様で積極的なんやなぁと思た。これも仕事では見せへん、所謂ギャップってやつやな。


「あっ、ほんであれ持ってきた」

「えーっと、シュラフやんなぁ。持ってきたよ」


 なんか仕事の時と違ごて、タメ口なんがより可愛らしく思えてくる。


「そうそう。エアーマットは僕の方で用意しといたし、シュラフ貸して」

「はい、どうぞ」


 僕はこの日の為に取り付けた45リットルのトップボックスから、予備のヘルメットを出し、ひとみのシュラフを収納する。僕のシュラフとエアーマットが2つと懐中電灯と飲料水が入ってるけど、まだまだ収納には余裕がある。

 因みに、燃料タンクのとこのラゲージスペースには、携帯コンロにコッヘル、スティックのコーヒーと僕のウインドブレーカーにランタンが入れてある。完璧な装備や。


「他に荷物はない? まだ入るで」

「後は、ウインドブレーカーとお弁当やし大丈夫よぉ」

「お弁当作ってきてくれたん?」

「うん、夜食にと思てサンドイッチを少し。ああ、でもたいしたもんじゃないよ」

「それでも嬉しいわ。ほんなら夜食をここに入れとこか」

「はい」


 よし、これで準備完了。


「ほんならこのヘルメットを被って後に乗って。こことここに足を載せたらええわ」


 僕が先にバイクに跨がり、ひとみの手を取ってサポートする。


「えーい。よいっしょっと」


 少しサスペンションが沈む。二人乗りやけど、750ccのパワーやったら山道もなんとかなるやろ。


「えーっと、和さん。どこ持ったらええの」

「うーっと、おしりの下のバーを握るか、怖かったら僕のお腹に手を回してもええよ」

「うん。じゃぁバイクの後に乗るんは初めてやし……」


 僕のお腹にひとみの手が回ってくると同時にめっちゃ柔らかい感触が背中に伝わってきた。


 めっちゃでかいんとちゃう!? いかんいかん。安全運転に集中せな……。


「ほんなら行くでー。なんかあったら合図してや。直ぐに停まるし」

「……」


 ちょっと緊張してるんかな。

 さあ、いよいよ出発や。



 つづく



※装備

 シュラフ、エアーマット、ランタン、懐中電灯、携帯コンロ

 水、コッヘル、コーヒー等、ウインドブレーカー、おやつ


※気温データ(ある日の実際のデータ)

 京阪出町柳駅前(京都市左京区)      32度


※ペルセウス座流星群のデータ

 ペルセウス座流星群は毎年8月13日前後に出現してますが、ここ数年で「好条件」にて観測できそうな日を以下に示します。


(1)2018年は8月13日の10時が極大ですが日の出後なので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでがお薦めです。月齢も1.73と月明かりもなく比較的良い条件で観られるでしょう。


(2)2021年は8月13日の4時が極大です。月齢は4.56ですが22時頃には沈みますので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでが、かなり良い条件で観られるでしょう。


(3)2024年は8月12日の23時が極大です。月齢は7.62ですが23時頃には沈みますので、12日の夜半から13日の未明に掛けてが、かなりの良い条件で観られるでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る