失格剣士は何でもします

路傍の石

第一章 開拓地の片隅で

プロローグ

──旧魔族領──


 嘗て魔物が徘徊し、魔族の支配領域と伝えられていた人類未踏の大地があった。

 しかし、半ば禁断の地としてその存在が暗黙の存在だと人々の心に深く植えつけられていた世界においてでさえ、無謀な挑戦に挑むものはいつの時代にも存在するものである。

 そして、停滞した時間を破壊しうるものとは、いつの時代もそんな無謀な挑戦をし続ける者達であるのだろう。


 それは凡そ300年ほど前の事。


 ある冒険者の1団が人類として初めて未踏破領域の深淵に到達し、未踏破領域の開放の足がかりとなる成果を上げる。


 それは合計32名の挑戦者達。

 しかし、帰還したのは僅か2名。


 しかし、30名の犠牲の元に2人が持ち帰ってきた成果物は、深淵に残されていた旧魔族の残香とも言える魔道具と、既に魔族が未踏破領域に存在しないという証拠の数々であった。

 魔族がいないのであれば士気は上がる。

 魔族のいない“旧魔族領”に各国の開拓団や冒険者達がなだれ込み、領地の奪い合いが始まったのはある意味では必然であっただろう。


 そんな中、旧魔族領を踏破した2人を中心として、小さいながらも一つの国を作り上げた集団ががいた。

 それは、初の踏破者である2名の英雄の存在を、各国が認めざる得ない状況であった為だったろう。


 英雄の名は“ライラック”。


 英雄の名は“ガーラル”。


 ライラックは後に国王となり、冒険者を中心とした世間で言う“ハミ出し者達”を救済するための国を目指した。


 ガーラルは剣術流派を開き、己の業を後世に残すために尽力した。


 2人が生きている間に2人にとっての夢の到達にはいたらなかったが、2人の名を受け継いだ者達が1つの国と1つの流派を昇華させた。

 

 ライラック王家とガーラル公爵家。


 立場は変われど目的は変わらず受け継がれ、やがて“ライラックにガーラルの剣有り”と各国から一目おかれる存在へと変化していくに至った。


 そんなライラック王国、ガーラル公爵家の修練場において、一人の少年が一人の少年に打倒される所から物語は始まる。


 早熟すぎた少年の目指すものは何なのか。

 

 それは、この時誰も。当の少年本人ですら分からなかった。

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