シンデレラと魔女の孫

無月兄

第1話

 私の名前はシンデレラ。それを聞いただけで詳しい説明は不要でしょ?

 継母や義姉に苛められたけど、魔女の助けを借りてお城の舞踏会に行き、最終的には玉の輿にのるあれ。それが私。

 そして今日はその舞踏会が開かれる日。だけど一人家で留守番している私の元へとやって来たのは…


「えっと、あなたが魔女さん?」

「そうだよー」


 元気よく返事をしたのはどう見ても6~7歳くらいの女の子。あれ、魔女って大抵お婆さんじゃなかったっけ?


「お婆ちゃんがギックリ腰で動けなくなっちゃったから私が代わりに来たの。今から舞踏会に連れてってあげるね」


 なるほど、この子は魔女のお孫さんか。魔女ちゃんと言った所かな。

 でもこんな子供で大丈夫なのだろうかと心配になる。すると向こうもそれを察したようだ。


「あっ、お姉ちゃん今、私で大丈夫かって思ったでしょ」

「そ、そんなこと無いわよ」

「ほんと?まあいいや、私は魔法の天才なんだからドーンとまかせといてよ」

「そうなの?それなら……」


 自信満々に言うのを見て、任せてみようかという気になる。だけどその時、辺りに電子音が鳴り響いた。


「あっ、お婆ちゃんから電話だ」


 そう言うと魔女ちゃんはポケットからケータイを取り出した。最近の魔女はケータイを使うのか。そして魔女ちゃんが通話ボタンを押した途端、電話の向こうから凄い勢いの声が届いた。


「何やってんだい、勝手なことをしたらダメじゃないか!あいたた、腰が……」


 どうやら電話の相手は本当の魔女さんのようだけど、何だか様子がおかしくない?

 だけど魔女ちゃんは全然動じた様子は無い。以下が二人の会話の記録となる。


「お婆ちゃん、そんなに怒鳴ったらダメだよ。ちゃんと安静にしてなきゃ、ギックリ腰は西洋だと魔女の一撃って言われるくらい痛いんだからね」

「そんな豆知識はどうだっていいんだよ。それよりお前にはまだ魔法は早い」

「でもお婆ちゃん、いつも私に言ってるじゃない。お前は天才だって」

「そりゃ言ったことは言ったけど…でも今はまだ無理だ!」

「平気だって。あっ、時間が無いからもう切るね」

「お待ち。話はまだ終わって……」


 お婆ちゃん魔女はまだ何か言おうとしていたけれど、残念ながら通話はそこで終了となった。

 そして魔女ちゃんは私を向いて言う。


「じゃあ早速舞踏会に行こうか。まず最初にかける魔法は…」

「ちょっ…ちょっと待って!」


 取り出した魔法の杖を振るおうとする魔女ちゃんを慌てて止める。この子には悪いけど、今の会話を聞いた後だと不安しかない。


「やっぱり舞踏会は行かなくてもいいかな。玉の輿に乗るだけが幸せじゃないんだし」


 ここは何とかしてこの子に思い止まってほしかった。だけどそれを聞いた途端、魔女ちゃんの目が潤んだ。


「私じゃ嫌なの?」

「違うの。そう言うわけじゃ…」

「せっかく、せっかく来たのに……」


 ポロポロと涙をこぼす魔女ちゃん、これはまずい。泣く子と地頭には勝てぬとはよく言ったもので、小さい子の涙は反則だ。


「ご、ごめんね。やっぱりお願いするから。舞踏会に連れてって」


 涙に押し切られ、とうとうそう言うしかなかった。すると魔女ちゃんはそれまで泣いていたのが嘘のように笑顔になる。


「そう。じゃあ始めるね。まずはその服をドレスにしよう」


 魔女ちゃんは杖を構えると呪文を唱え始めた。


「実は呪文はよく覚えていないんだけど、まあなんとかなるよね。チチン……なんとか!」


 あの、何だかちっとも上手くいく気がしないんだけど。だけど私が口を挟む間もなく杖は振るわれ、来ていた服が光り輝く。そして意外や意外、服は煌びやかなドレスへと変わった。


「凄い。本当に魔法が使えるんだ」

「だから言ったでしょ。私に任せてって」


 魔女ちゃんは得意げに胸を張る。


「じゃあ次は靴と馬車だね。呪文はたしか……ビビデバビデなんとか!」


 その呪文もよく覚えていないの?あと一文字じゃない。

 だけどそんなものでも魔法は発動した。何も無い所に靴と馬車が現れた。


「凄いでしょ。カボチャの靴とガラスの馬車だよ」


 またまた得意げな魔女ちゃん。あれ、でもちょっと待って。なんだかおかしくない?


「ねえ、それってもしかしてガラスの靴とカボチャの馬車が正解じゃないの?」

 何となくだけどそんな気がする。だけど魔女ちゃんはそんなこと気にしない。


「そうだっけ?でもまあいいや」


 いいのかな?試しにカボチャの靴を履いてみたけど、微妙に柔らかくてあまり感触は良くない。なんかネチョネョしてるし。

 もし私が料理に強い拘りを持っていたら、きっと『食べ物を足蹴にするなんて!』と怒っていただろう。

 それでもなんとかカボチャの靴を履き、ガラスの馬車へと乗り込む。馬車はもちろん透明なので外から丸見え、何だか少し恥ずかしい。


「では出発」


 魔女ちゃんの掛け声で馬車はゆっくりと動き出す。だけどガラスでできた馬車なのだから強度なんてあるわけが無い。


「あの、魔女ちゃん。何だかこの馬車進むたびにあちこちヒビが入ってるみたいなんだけど」

「所詮はガラスだからね。でもそのおかげで外から見られる心配は無くなったよ」


 最初はほんの僅かだったヒビも今では全体に広がり、透明だった馬車を白く変えていた。


「ねえ、このままだと馬車壊れない?」

「そうかもね。じゃあそうなる前に早く着かなきゃ。スピードアップ!」


 途端に馬車が加速する。確かにこれなら早く着くけど、その分ヒビの入りも早くならない?ほら、今にも壊れそう。もし壊れたりしたらもちろん中にいる私も無事じゃすまない。ガラスの破片が頭から降り注いで血まみれになる。そうなったらもう舞踏会どころじゃない。


「ひぃぃっ!」


 馬車が揺れ、ヒビが入るたびに悲鳴をあげる。それでも何とか馬車が砕け散る前にお城へたどり着くことが出来た。


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