私たちは何者なのだろう
神谷和希
第1話
わたしたちは何者なのだろう
ただひらひらと水の中を泳いでいた
奥深い水槽の中には大きな岩が座り込んでおり飛び込むと一直線に岩まで沈んでいく
水は美しく岩に身をゆだね辺りを見渡すと仲間が楽しそうにゆらゆらと泳いでいた
皆おひれ、せびれなどを柔らかく動かし踊るように泳いでいた
わたしには人魚のように足にひれがついていて
気持ち良く自慢気に潜るのだ
「この泳ぎを彼が見ていればいいのに」
ワタシたちは何者なのだろう
ふとカーテンを開け外を見た
下を見ると尾ひれはもうなくなっていた
外はひどい嵐が続き、密閉された空間に混乱が起こっていた
ワタシたちは何者か
どこから来て何のためにここにいるのか
皆がひとりの男に尋ねる
その男の意識の中にワタシが入る
男がワタシの意識に入り込んだのかどちらが先だったかはわからない
ただすーっと意識が引っ張られるように
ワタシが仲間と暮らした薄暗い空間が小さな緑の箱になって私の手のひらにちょこっと存在していた
男は緑の箱の中にひとり置かれた先駆者だった
彼は仲間をつくる
理由はない
ただ生命とはそういうものなのだろう
あとで自分が作ったそれらに責められようとその事がわかっていても彼は仲間をつくるであろう
私たちもこうなのだと思う
ないほうが楽ではないか、どうして私をつくるのだ、私は風であり満月であり、空気に漂う塵のひとつだったのだ
私は自然だった
形づくられた私はなんと苦しく醜く不自然なのだろう
なのに形づくられた貴方はなんと美しいのだろう
私はどうして泣いてしまうのだろう
私は箱を川に流す
無に戻すため
全てを自然に戻すため
激流の中流れる箱を眺める
怖いほど沈まず
箱はいつまでも在り続けた
見えなくなるまで箱は在り続けた
私たちは何者なのだろう 神谷和希 @aki0124
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